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多分、先に言ったことの返事だろう。
もし、私なら好きな人には幸せでいてほしいと思う。優しいお姉ちゃんが違うはずがない。
『キーホルダー、大切に使わせてもらう。』
観覧車が終わりに近づいたとき、能勢さんは静かに言った。
お姉ちゃんは能勢さんを見つめて頷いている。
そして小さく『ありがとう』と言った。
私にも聞こえずらい小さな声で。
帰り道、能勢さんと少し間を空けて並んで歩いている。すれ違う人にはそう見える。
私と彼との間には、私に廻されてカチコチになって歩いているお姉ちゃんがいる。
佐々木電気の交差点で、私たちは立ち止まった。
能勢さんはお父さんたちが供えた花の前で、手をあわせてくれた。
花は増えている。誰かが供えてくれたんだろう。
『今日はありがとう。』
能勢さんはそう言うと自分の家の方に向かった。
少し猫背の背中が淋しそうに見える。
「いいの?」
小さな声でお姉ちゃんに聞くと、ひとつしっかりと頷いた。そして、ちょっと小さくなった能勢さんに向かって叫んだ。
『お誕生日おめでとうございます!』
能勢さんは振り返らない。お姉ちゃんの声は私にしか聞こえないから。
叫んでいた。
「お誕生日、おめでとうございます。能勢さん、お誕生日おめでとうございます!」
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