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手入れの行き届いていない、くもり気味の鏡をにらみつけながら口の中を噛み、その疼きに耐える。
鏡の中の虚像でしかないあたしが、それでもこちらをじっと睨みつけていた。
出会ってからたった数日しか経たないのに、こんなにあたしの心をかき乱した人なんて、他に知らない。
この薄汚いまでの好奇心の正体は、きっとそれだ。
そう思った瞬間、ふ……と空間が薄暗くなる。
時計を見ると、そろそろ陽が傾いてくる時間だ。昼間、みっともなくコンビニのトイレで吐いてしまってからいくらも経っていないのに、もう帰る時間のほうが早いなんて、まったく時間というものは。
こっそり胸を打つ早鐘は、懸念なのか希求なのか。
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