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そこに日常はあるのか。
俺は夢の中で問いかける。汗ばんだ手に握るものは何か。望む未来か、はたまた落ちてゆく闇か。
誰かがその闇の中で問う。
「何のために生まれ、どこへゆくのか。」
答えはない。それは、永遠に問い続けるのか。それとも…。
ガラスのコップに僅かに残った、濃い味のビールを飲み干した俺はしみの付いた原稿用紙をなぞる。
「はぁ。」
ため息は幾度出るともその一片の紙に文字が書き足されるわけでもなく、外の曇天がさらに僕の憂鬱さを増す。
一介の学生である俺がこの薄暗な空の国、ポーランドに来たのは半年前。
ある日風邪で寝込んだ俺は、一週間、二週間、と講義をサボるようになり、そのまま大学を休学した。なんの事はない、いわゆる"ただの引きこもり"になったのだ。そしてそのままなんとなくポーランドへ来ることを決めて、来てしまった。
親は、反対も賛成もしなかった。むしろ母親は少し安堵しているように見えた。俺が引きこもってしまったから、多分、何か行動を起こすだけで嬉しかったのだろう。
「カナタが海外の、しかも"ポールランド"に行くなんてねぇ。」
と、全力の間違いをしながらしきりに頷いていたのだった。
俺はそんな家族の反応をよそに、なんとなくいだいていた海外への希望と期待を無理やり押し込んで平成を装っていた。しかし、来てみるとその期待は途端に戸惑いへ変わることとなる。降り立ったクラクフ空港には誰も迎えが来るわけでもなく、東欧独特の訛のある英語と、一見するとアルファベットとみまがうような文字達が俺を惑わせた。
「ヨーロッパに行くの?いいなぁ、東欧美人がたくさんいるんだろう?」
なんて言っていた、数少ない俺の友人を殴り飛ばしたい。
そこに美人がいたとてどのような俺との接点がある?この国では俺は"外国人"であり得体の知れない"アジア人"なのだ。その俺に自分から来てくれる美人のポーランド人女性がいたのなら喜んで迎え入れよう。ただし、日本語が話せるのが条件だが。
しばらくそんなとりとめのない回想をしていると、寮のドアがノックされた。
「誰だ、こんな時間に」と思う隙もなくギーとたてつけの悪いドアが開く。
「あぁ、ピヨトルか。こんな時間になんだ?」
「カナタ、ごはん、たべますか!?」
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