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「矢嶋ちゃん、お酒強くないの?あんまり進んでないね」
気がつくと隣に座った男の子が顔を覗き込んで声をかけてくる。わたしは曖昧に笑みを浮かべて首を傾げた。
「飲み慣れてないから。…味もあんまり、好きってほどでもないし。やっぱりソフトドリンクにしようかな」
これは事実。大学生活でも結局、ついにお酒に親しむ機会はほぼなく終わった。これからも多分それほど飲み慣れていきそうな予感はない。
顔は何となく見覚えがあるけど名前がどうにも思い出せないその子はちょっと眉を上げ、ドリンクメニューをぱらぱらめくって見せた。
「でも、今後も飲む機会増えるだろ、仕事してるとさ。職場でも付き合いとかあるし。こういうチャンスにちょっとでもアルコールに身体馴らしておくといいよ。味が苦手ならカクテルとかなら飲みやすいんじゃない?これとかどうかな」
なんか妙にてきぱきと勧めてくる。わたしの内部でアラーム音が微かに鳴った。この手の男は要注意。
それでも烏龍茶にしとく、と口を開こうとした瞬間、反対側のわたしの隣に座ってた女の子が上体を近づけてメニューを覗き込んできた。
「あ、あたしもカクテルにしよ。何しよっかなぁ、カルーアミルク?…カンパリオレンジかなあ…」
「ソルティドッグもあるよ。…じゃ、矢嶋ちゃんはこれにしよっか」
何でだよ!
ちょっと意味がわからない。内心憤然となったが、下手に揉めるのも面倒だ。まぁいい、手許に置いといて口をつけなきゃいいんだろ。肩を竦めて受け流した。
ここはあくまで同期会であって、合コンじゃないっつの。でも、勘違いしてる奴いるんだろうなぁ。同じ社内でお持ち帰りなんかして、明日から顔合わせたら気まずいじゃん。そういう意識ないのかな。
経験上言うと、男の中には後先のことはあまり考えずとにかくやれるチャンスは逃さないってタイプが潜在する。殆どの男性はそうじゃないって仮説を認めるのは吝かじゃないけど、それでもうっかり地雷に当たったら始末に困る羽目になる。それで結局、ほぼ全員の男の人を念のため警戒する成り行きになるんだから。
地雷にはどっか印がついてるとか、一目で判別できるようになってりゃいいのに。そうすればまともな男の人に疑いの目を向けて、自意識過剰の女と思われずに済むのになぁ。
何となく強引に隣に座ってきたその男(確か営業の子。名前は篠山と言った)にその後もがっちりロックオンされて弱る。
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