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「流石に、自分も同感です」
「八橋君、その書き込みの投稿者は、もう判明した?」
「今、サイバー対策課から通じて、その許可を貰っている最中です」
「なら、解決しそうだね」
「許可が下りたら、そうなるかも知れないです」
八橋刑事との電話を終えた木葉刑事は、手塚刑事と報告を交えて喋る。 手塚刑事は、八橋刑事を頼った意味が漸く解ると同時に考え込み。
「そうなると、木葉よ。 やっぱり、この事件の根っこは・・」
「えぇ。 風化した過去のモノを掘り返そうとした人が…」
「そうなると・・遺族かな、木葉」
「どうでしょうか。 被害者の故郷は、九州は長崎とか。 今更に、そっちから復讐をしに出て来るなんて…」
頷く手塚刑事は、然し不思議なものとばかりに。
「だが、本当にお前の勘のキレは、正に天性のモノだな。 手掛かりが、ネットの中とはなぁ…」
狭い歩道の外側にて、車を気にしながら木葉刑事は言う。
「いや~、ヤマカンですよ。 自殺を強要されたり、自殺を決意したとして。 あんな簡素で質素な生き方をして居た人物がもしそれを思い立つのならば、原因を簡単に想像すると、過去と現在の事」
「‘過去’と‘現在’・・か。 ‘過去’は、犯した殺人の事だな」
「はい」
「だが、木葉。 ‘現在’は?」
「被害者は、アパートの大家さんと管理人さん、そして務めるお店のご主人にだけは、自分の犯歴を言って在りました。 また、周囲の方とは細々と薄い付き合いながら、働く店での客や親方には礼節を通して居ます」
「確かに、人間関係から観ると、己の罪を見つめ直して真摯に生きている…」
「手塚さん、そんな人の一番の恐怖は…」
木葉刑事の語りに、手塚刑事も容易に解る。
「自分を受け入れてくれた人々への、‘迷惑’・・」
「はい。 自分の過去で、他人が迷惑を被ると知ったら、自殺の可能性も出て来ます」
「ネットでそんな事を流されたら、職場の寿司屋に多大な迷惑が掛かるわな」
「はい。 然も、ネットでは数日内に公表するとしたのに、何故か公表されていません」
「そうなると。 その公表を仄めかす内容を書いた奴は、何らかの方法で被害者が自殺した事を知った可能性も…」
手塚刑事と此処まで考えた木葉刑事は、今にも雨が降りそうな空模様を見上げ。
「然し、今日は蒸しますね~。 嫌な事は、天気だけにして欲しいッスよ」
雲行きと事件の想像した顛末を重ねた。
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