第二部:秋冬の定まり。

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(俺じゃなく、彼は知るべきだろう。 この姿を、その本意を…) 決心をした木葉刑事、この被害者と被疑者の若者を会わせることにする。 さて、夜中の1時過ぎ。 木葉刑事と留置場の看守をする警察官が一緒に、房へ入る大学生を見届ける。 「明日、また取り調べがある。 少しでも休む様に」 留置場の責任者たる警察官が云う。 壁の方に向いて、小さく頷くだけの大学生。 そして、先に出入り口へと向かって歩く警察官達。 だが、若者前にしゃがんだ木葉刑事の両眼は赤紫色に光りはじめ。 「今夜は、彼の気持ち、しっかり受け止めなさい」 小さい声でこう呟いた木葉刑事は、立ち上がって出入り口に行った。 漸く独りになった大学生は、空調の利いた牢の中で布団と薄い毛布が畳まれた場所に身を倒した。 (何で、何でだよっ。 罪人が一人、勝手に自殺した・・それだけじゃないか。 周りに迷惑が掛かるからって、勝手に自殺なんてしやがって…。 アイツの所為だ・・アイツが自殺なんてするから…) 沸々と湧き上がる苛立ちや憎しみが、大学生の中で溢れて行く。 自分の将来が崩壊してゆくと、そう感じていた。 だが、それからどれほどか。 彼が房に入ってから最初の見回りの行われた後、午前3時前。 「煩いっ、謝るな。 謝ったって、もう取り返しがつかない…」 何かを振り払う様な大学生の声が、留置場に響いた。 この日は、彼以外にこの留置場の何処にも人は居ない。 話す相手など、一人も居はしない筈だ。 然し、それから直ぐに。 「止めろっ、止めろって!」 また、大学生の声がする。 出入り口の格子ドアを守る看守の警察官は、彼以外に誰も居ない事を知っていた。 (独り言か? 今更、罪でも・・) 仕事の行動に私情を挟まなくても、気持ちの中は違う。 悪人を問い詰めたならば、話も気持ちも解るが。 もう刑期を終えてひっそりと生きる者を追い詰めるなど、看守をする警察官からすると腹が立つ。 罪を繰り返す者を良く見る彼等だから、立派に更正した者を他人が追い詰めるなど、例え無罪の人だとしても容認したく無い。 だが、それからまた少しして。 「もういいっ! 謝るな゛ぁ!! 止めろっ、やめろぉ!」 大学生の声がする。 その声が、見張りの警察官には癇に障る。 席を立ち、格子ドアに近付くと。 「こらっ、静かにしなさい。 朝から取り調べが有るんだよ」 と、声を掛ける。
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