3人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、大学生は、何かに取り憑かれた様に。
「出て来るなっ、もう止めろぉぉっ! 解ったぁよぉっ!! 僕が悪かったぁっ、僕がアンタを追い詰めたのが悪かったんだっ!」
と、喚き出したのだ。
これは可笑しいと思う見張りの警察官は、鍵を取ろうとすると…。
「どうしたの。 おっきい声がしてるけど」
ひょっこりと木葉刑事が顔を見せる。 トイレが近い場所だから、丁度良いと警察官は。
「それが、あの被疑者が喚き始めまして」
飄々とした顔の木葉刑事は、
「あらら、それは不味い。 看守長を呼ぼう」
と、奥の部屋に。
見張りをする警察官は鍵を取って格子ドアを開けると、大学生の入る牢に向かう。
すると…。
「頼む・・頼むから止めてくれぇぇぇ…」
薄い毛布を被って震える若者は、牢の右隅に向かって謝っていた。
其処へ、留置場を管理する責任者の警察官が、木葉刑事も伴ってやって来た。
「どおしたっ?」
と、見張りをしていた警察官に、責任者の警官が問う中で。
牢に近寄った木葉刑事は、
「もういい、もういいですよ」
と、小さく声を掛けた。
すると…。
「あっ、止んだ」
大学生が、薄い毛布を外して身を起こす。
其処へ、一番に近付いて居た木葉刑事が。
「どうしたんだい? 夜中の3時を過ぎた、もう休みなよ」
声を掛けられた大学生は眼を充血させ、疲れた顔をそのまま引っさげて木葉刑事の元に這って来る。
「刑事さんっ、ききっ、聞こえたんだっ!」
「何を?」
「あの、ああ・あの人の声がっ! 僕に、僕に謝る声がっ!!」
近寄って来た勢いのままに、格子の間からズボンを掴まれた木葉刑事。 看守の長をする警察官以下、留置場を預かる警察官に緊張が走る。
“暴力沙汰かっ”
と…。
然し、掴まれたままの木葉刑事は、大学生の目を見詰めながら。
「恐らく君は、自分の罪を見ない様にする為、正当化する様な事を取り調べでは言っていたけど。 本当は心の何処かで、既に解っていたんじゃ無いのかな」
「え?」
「自分の犯した罪のことさ。 遺体を刺したことより、物証を持ち去ったことよりも、一人の人間を自殺にまで追い詰めてしまった罪だ」
「・・・」
黙る彼が俯き、木葉刑事を掴む力が緩み。 彼は、鉄格子の前で呆ける様に成った。
最初のコメントを投稿しよう!