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そんな風に成る彼へ、木葉刑事は穏やかな口調で言った。
「自分が追い詰めてしまった者の声がその耳に聞こえるなんて、どう考えてもそれ以外には思えないと感じるけど」
「・・はい」
「なら、明日からの取り調べには、素直に対応しなさい。 君も、さっきは飯田刑事や手塚刑事から被害者の事を聴いたと思うけどさ。 あの亡くなった被疑者って、周りの人からは慕われいた。 確かに、君の云う通りに、嘗ては殺人と云う重い罪を犯したのに・・。 それは、間違いを犯した後の態度や生き方が、そうさせたんだよ。 そして、これから取り調べや・・裁判に臨む君には、親よりも死なせた彼の生き方こそが、身近な手本に成ると思う」
木葉刑事の言葉に、大学生は涙を溜めた目を向けた。
「そう・・ですね」
彼の眼に、もう我が儘な怒りが無いのを見た木葉刑事。
「犯罪を犯しても、刑期を終えて直向きに生きる人は居る。 今度は、君がそう生きる番だ。 さ、もう休みなさい。 明日の取り調べは、なるべく遅くする様に頼んでみよう。 風邪なんかひかれても、こっちも困る」
「・・・スミマセン」
「あ、それから。 起きるまで毛布を外さない方がイイよ。 留置場は、意外に冷えるからね」
「はい…」
大学生を落ち着けた木葉刑事は、後ろに紫裟管理官も見えた前で。
「ふぁ~~~、落ち着けたみたいッスよ。 自分は、寝ますね」
何事も無かったぐらいに普通の物言いで、眠たそうに出入り口に向かって行く。
被疑者が落ち着いたと見た看守の責任者をする警察官は、白湯を持って来させ。
「それを飲んで、ゆっくり休みなさい。 いいね」
大学生に気遣いをしては、皆で廊下に出ると。
「紫裟管理官。 明日の取り調べは、あの刑事さんの云う通りに遅らせて下さい。 少し、長く休ませた方がいい」
強引な事をすることも在る紫裟管理官だが、明日からはもしかすると弁護士の接見などもあり得ると考えるて、無理は必要性が無いと判断し。
「午前中の取り調べは、様子を見ながら考えます」
看守の長が打診した意見を含んだことを匂わせて下がって行った。
こうして、この事件は終わるかに見えた。
だが、まだ少し続く。 この続きには、被害者の人生が紐解かれる時が待っているのだった。
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