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21 襲撃 その5
21 襲撃 その5
残照の消えた紺青の空に、寄り添った双子の月が輝き始める。
女官長はそっと廊下をうかがった。
呼びにやった甥が来るのが、遅い。
ラクロア兵たちと『火の一位』の配下が皇太后の名のもとに宮殿の要所をおさえているおかげで、外の騒ぎと裏腹に、王宮内の秩序は一応保たれている。
脱出し、外の混乱に乗じて市街に抜けるなら、今しかないだろうに・・・。
「ギリアスはわかっていないのでしょうか。
竜王様の御加護を失ったロードリアスがこの先どうなるかを。
竜王神殿の束ねともあろう者が」
『水の三位』が苦々し気に言う。
「あと、二年で活動期が始まる。魔獣たちが目覚める。
それなのに、竜王様がおられない」
『風の一位』が深くため息をついた。
「竜王神殿の存在意義はなくなりましたのじゃ。
愚かな人間の野望のために、ロードリアスの命運は尽きたのです。
この活動期が終わった時、ロードリアスもラクロアも、地上から消えているでしょう」
近くで、悲鳴が聞こえた。
三人はあわてて立ち上がる。
取り乱した若い女官が走り込んで叫ぶ。
「女官長様!女官長様!
ラクロア兵たちが、王宮内になだれ込んで来て!
略奪し、火をつけ回っています!」
おろおろする『風の一位』を残して、女官長と『水の三位』がルオーが寝ている場所に駆け寄る。
「ルオー様!ルオー様!
こちらからお逃げ下さい!」
女官長が半地下の窓からルオーを外に押し出す。
バン!と扉が開き、ラクロアの紋章をつけた兵士がなだれ込んで来た。
若い女官が悲鳴を上げる。
『風の一位』を殴り倒して踏み込んだラクロア兵が、窓の前に立ちふさがる老婦人に向けて剣を突き出した。
『水の三位』は胸に突き刺さった剣を不思議そうに見下ろす。
かすかに笑う。
「こんな事になるなんて。あと二年・・・。
竜王様が竜に変化〈へんげ〉なさるまで、あと二年・・・それは楽しみにしていたのに・・・。
あと、二年だったのに・・・こんな事に・・・」
抱きとめる女官長の腕に、がっくりと頭を垂れる。
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