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第一章 1 小さな王子
第一章
1 小さな王子
「・・・気持ちが悪い・・・」
ルオーは袖で冷や汗を拭った。
王宮と神殿の境の林。
ここから大人には通れぬ藪の下を這って行くと、神殿の東側を見上げる涼しい窪地に出られるのだが、今日はそこまでたどり着けそうにない。
外の空気を吸えば吐き気が収まるかと思ったのだが、ちょっとした坂道で息があがってしまい、ますます気分が悪くなる。
女官たちににらまれて、朝食を無理やり飲み込んだせいだった。
「召し上がって下さらないと、私たちが叱られます」
〈嫌になっちゃうわ、我がままな子〉
「ちゃんと召し上がらないから、お体が弱いのですよ」
〈なんて贅沢なの。みっともないやせっぽちのくせに〉
・・・何と言ったら、わかって貰えるのだろう。何を食べても口の中に苦い、渋い、嫌な味がいつまでも残って、吐き気がすることを。
なぜ、ほかの人たちは平気なのだろう。
一度女官長に、なぜ食べないか問い詰められ、「まずい」と言ってしまったことがある。
結果は・・・延々一時間のお説教だった。
最高級の芝麦の粉を、最高の料理人が焼いたパン。国中から集められる、最上の食材。
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