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吐き気が少しおさまり、草むらに突っ伏したルオーの耳に、通り過ぎていく人々の話し声が届く。
林の向こうを、職人たちが、陽気にざわめきながら通っていく。六年後の竜王祭に向けて神殿の一部が改築されるのだ。
「竜王祭か・・・」
ルオーはつぶやいた。
ロードリアスの守護聖獣。
金色の巨大な竜が目覚め、神殿裏の岩窟から出現するのだという。それから百年間、王国は竜王の庇護の下に置かれるのだ。
それは様々な魔獣が現れて国境を侵す時期であり、竜王に仕える大神官の権力が、国王を凌ぐ時期でもあった。
(竜王様って、どんな御姿をしているんだろう)
ルオーは期待してわくわくする。
神殿の壁画や城のタペストリーなどで竜の姿形は知っていても、本物の竜に会うのはすごい体験に違いない。
だって、伝説によれば、ルオーたちロードリアス王家の人間には、その竜の血が流れているのだ。
ロードリアスの王女と結婚し、この国の基礎を築いた、竜王様の血が。
六年先が遥か彼方に思える八歳の子供にとっては、百年の眠りと目覚めなどと言われても、見当もつかない長さであった。
わかっているのはこれから記念行事や式典が山ほど続き、皇太子として長時間固い椅子に座り続ける、拷問のような時が多くなるという事。
思っただけで吐き気がこみあげて、ルオーは長いため息をついた。
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