第二部:秋冬の定まり。

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それよりも印刷工場への債権を手に入れたチンピラ達は、自分達の親や家族から毟り取った分を取り返す為。 その若さや欲望の全てを掛け、楠木印刷工場へ取り立てをし始める。 だが、普通ならばたったひと月の猶予を待てば良かった。 そうすれば社長の基樹氏が借りた金には、三割強の利息が付いて債権を持つ者に返って来る。 そう、窓口に居た男は、余りにも短期間できっちり返って来ると解って居た。 だから、逆に嘘を付いて若者達を騙したのだ。 然し、それで困るのは債権を買ったチンピラの若者達だ。 ひと月で三割強の利息が付いても、債権買い取りに掛かった費用の三分の一しか回収が出来ない。 取り立てを開始して楠木社長と言い争う事で、それを知るチンピラ達は騙されたと気付く。 夢は壊れ、持ち出した金の事が親にバレ、先行きが真っ暗と成る為に仲間割れもして分裂する。 今日、警察署に来た小柳老人の息子の章太は、掛かった元手の総額を回収する事が出来ないと解り。 普段からやって居る大麻の影響も在るだろうが、ジレンマで怒り狂った。 そして、壊れた車が暴走するかの様に、異常な取り立てをし始める。 真夜中でも関わらず行うその取り立ての噂は、直ぐに町中へと広まった。だが、暴力行為から警察に連行されて注意されても、闇金業者の元締めと成るヤクザの幹部に止める様に注意されても。 遂には訴えられて相手側の弁護士に注意されても、章太は諦めきれ無かった。 だがそれは、彼がもう他に縋るモノが無かったから、皆殺しにしてでも土地を手に入れようととしたのかもしれない。 そして、殺人事件の当日。 今日、捜査本部に来た、楠木基郎の姪に当たる幸代は、印刷工場を受け継ぐ兄基樹氏の娘と成るが。 その彼女が中学生の時に小柳章太は、不満の勢いが余ってこの彼女を誘拐したのだ。 実は、事件後二年して、事件の起こった警察署で火災が有った。 その火災時、この事件の記録を含めた調書が焼けてしまった。 この事態の為に、本事件の捜査本部にも深い事情が伝わらなかった。 本当に大まかな概要しか知らなかった刑事達はもちろんだが、殺人事件としてしか聞いていなかった桔梗院弁護士。 話に驚いたのは当然のことで、木葉刑事は女性と老人を見交わして。 「貴女が、攫われた?」 こう問い返せば、幸代は嫌な過去を思い返す為に顔が歪み。 息子の悪事を蒸し返すことで、小柳老人も俯き目を瞑った。
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