第二部:秋冬の定まり。

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実の父親で在る小柳老人から殺人事件の話を聴く飯田刑事達も、こんな壮絶の極みと言える様子はなかなかに経験が無い…。 (なんてことだ、これで過剰防衛でもなく、殺人として立件されたのか? その裁判、どんな経過だったのか…) 同時に、外に立って話を聴いていた桔梗院弁護士ですら、殺人事件として刑期が決まった裁判に疑問を持ち、理解に苦しむ余りに眉を顰める程だった。 さて、近所の人が呼んだ警察が現場へとやって来た時、小柳一家を含めて家の中に怪我の無い者など居なかった。 助けに来た基郎氏は、全身に50針近く縫う怪我をして。 姪の幸代も、胸元やら太腿に傷痕の残る大怪我をして。 死んだ章太の父親で在る小柳老人は、腕や足に大怪我をして。 母親は、他の子供を庇っては背中を切られた。 この状況でも、警察には素直に従って逮捕された基郎氏。 元々から、九州男児を絵にした様な性格と云われていた基郎氏は、質問に対する答え以外の言い訳をしなかったとか。 怪我の治療後、警察の事情聴取には全て有りの儘に答えた基郎氏。 小柳一家が切り付けられた様子や姪の襲われいた様子を見て、章太へと強い殺意を覚えた事も言った。 これが無我夢中と言っていたら、罪はもっと軽く成ったかも知れない。 息子を殺された父親と成る小柳老人だが。 「刑事さん。 彼が息子を殺さなくても、何れ私が殺したか。 息子に、私達家族は殺されていただろう。 こんな言い方など、親としたら・・・不謹慎かも知れないが。 死んでくれて、私達は助かった…」 その小柳老人の人生に疲れた感は、刑事でなくても見て解る。 老人が歩く際に足を引き摺るのは、その時の後遺症だと云う。 また、横に居る姪の幸代も、身体に残る傷痕に苦しんで居る。 結婚をするのも、病院へ行くのも、会社で行う身体測定の時ですら傷痕を見られる。 女性として、後に残ってついて回るのだ。 これは、里谷刑事も良く解る。 以前にあの悪霊と遭遇してその動きを止めようとし、逆に弾き飛ばされた。 肋骨一本を丸々粉砕されて、人工の肋骨に交換したが。 脇の下から背中に掛けて、その手術の痕やら怪我の痕がうっすらとだが残る。 着替える時に見られたのだろうが、知らぬ間に他人が知って居た。
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