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通帳を手にする木葉刑事は、今日は旅の疲れも在るだろうと。
「・・解りました。 では、今日はこの辺にしましょうか。 お二人は旅の疲れも有りましょうから、ホテルを手配して在るのでしたら、送ります」
姪となる女性の事も考えて、里谷刑事と飯田刑事が送る事に成る。
そして、警察署のロビーにて見送る為にと、手塚刑事と二人並ぶ木葉刑事だが。 其処へ、桔梗院弁護士が来る。
「一応、帰る前にこれだけは言おう。 どんな過去だろうが、私は依頼人の利益のために全力を尽くす。 依頼人の権利と最大限の利益を守るのが、私の仕事だ」
と、言って来た。
その上からの物言いには、手塚刑事を含めた所轄の刑事が鋭い眼を向き。 階段まで降りて来た紫裟管理官ですら、不快感の滲む顔を見せる。
然し、桔梗院弁護士を見返した木葉刑事は、預かった通帳を差し出した。
「では、はい、どうぞ」
大金の記載がされている通帳を見た桔梗院弁護士は、木葉刑事を睨み付け。
「木葉刑事、これは何の真似だね。 私を買収しようとでも?」
だが、余りにも普通の様子を保つ木葉刑事だが…。
「なぁにをバカなことを言い出すんですか。 我々は、既に被疑者より供述も、物証も押さえました。 寧ろこの通帳の存在と意味は、彼を弁護する貴方がお借りするべきでは?」
「どうゆう事だね?」
「彼に反省を促し、有りの儘の事実を聴く。 そして、被疑者の人間を知り、より良い弁護をする。 その仕事をする貴方にこそ、被害者の見せた真意と誠実と謝罪の証で在るこの通帳を、被疑者と見て存在の意味を知るべきでは?」
こう語る木葉刑事の無機質な視線と、桔梗院弁護士の疑いの眼差しが噛み合う。
「木葉刑事、私を欺くつもりか?」
「はぁ? 自分が、貴方を欺くんじゃ~ないッスよ。 この通帳を見て警戒するのは、貴方が自分を欺いているからッスよ。 この通帳一つで貴方の裁判の勝ち負けが左右されるならば、一人の半生の全てが詰まったこの通帳を、貴方がちゃんと利用する事が出来ないだけ・・。 違いますか?」
「ん、んん・・・」
言い返す言葉を完全に見失った桔梗院弁護士。 普段ならば、遣り手の検事で在ろうが、弁舌達者な弁護士相手の法廷での舌戦でも負けない桔梗院弁護士だが…。
「ならば・・・、明日の接見で使わせて貰う」
何かに誘われたのか、桔梗院弁護士は通帳を受け取る。
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