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だが…。
(ふむ、通帳・・か)
ブランドでのスーツでもしっかりと着こなす桔梗院弁護士は、インテリ然とした態度は崩さないが。 その内ポケットに入れた十字架の重みは、冷静な彼の内心をも掻き乱した。
そして、黙った後、1・2分して。
「・・実は、ね。 見えられた二人は、共通の想いで遣って来られたそうだ」
「‘共通’?」
「そう。 その・・どうして君が、彼を追い詰める様な事を言ったのか、・・・とね」
その質問の意味を、大学生の若者はイマイチ理解が出来ない。
「あ・・でも、自殺した人は殺人を犯したんでしょう? 被害者遺族もそうだけど、自殺した人の遺族だって・・ほら、いろいろと迷惑を受けた筈じゃ…」
この大学生の答えに、彼の認識が見えたと思った桔梗院弁護士。 自殺した被害者は、更正する事で真っ当な人間と成ったとは知るも。 やはり、過去の事件の経緯について、この大学生は何も知らないらしい。
(これは・・問題発生だな。 どうしたものか・・)
顔色を変えずして、通帳と若者を見交わした桔梗院弁護士は、この認識不足は返って不味いのではないか・・と感じる。 結局、裁判に於いて、全ては明らかに成ると感じている。 もし、そうならば、確実に突かれる弱みは、この彼の考え方の甘さだ。
だから、意を決し…。
「実は、私からも君に、一つ聴きたい。 どうして、所持していたスマートホンやパソコンで、過去の事件の事をもっと深く掘り下げて調べなかったのかな?」
桔梗院弁護士より尋ねられて、大学生の彼はまた意外だと云う様な顔をする。
「事件のことは、過去の新聞の情報を見出しで全部載せるニュースサイトで調べましたよっ。 かっ、彼は、人を殺したって…」
「だが、今の君を見ても解る通りに、君は事件の詳細をほぼ知らない。 何故、殺人事件を犯すことに成ったのか。 その辺をもっと調べなかったのかね? 私でも、昨日に調べてみたら一時間としないで、簡略化された内容だが、当時の経緯を見付けられたよ」
こう話す桔梗院弁護士の言葉に、大学生は見る見るうちに恐れ始める。
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