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子供の頃の記憶というのはあまり覚えていない。年齢を重ねるたびに手のひらから零れ落ちるように記憶もこぼれ落ちていった。
それでも心に残っている記憶というのがある。忘れられない記憶。それは私が覚えている一番古い記憶。
霧雨が振っているなか、私は公園の遊具の中に座り込んでいた。大きな丘のような遊具。かまくらのようなその遊具には穴が開いていてそこから出たり入ったりして遊べるようになっていた。
私以外の子供は誰もおらず、私は一人真っ暗な遊具の中で座り込んでいた。その日は私の5歳の誕生日だった。いつも仕事が忙しかった両親は家にはほとんど寄り付かなかった。それでも誕生日だけはいつも二人は私の為に家に帰ってきてくれて、誕生日パーティをしてくれていたのだ。
でも、5歳の誕生日。その日両親は二人とも仕事がどうしても休めず私を一人家に残して仕事に行ってしまった。
誕生日だけを楽しみにしていた私にとってその両親の行動は私に対する裏切りだと思ったし、両親にとって私はいらない子なんだと思った。家で一人電気もつけずリビングに座っていた私はそんな事を考えていた。
テーブルの上には大きなケーキと両親それぞれが買ってくれたプレゼントが置かれていた。
でも、私にはそんなものはいらなかった。ただ皆で一緒に居たかった。それだけだった。私の唯一の願いは叶わなかった。私は寂しさに耐えられなくなり、家を飛び出した。
行くあてがあったわけじゃないし、考えがあったわけでもない。
ただ、あの家に居続けるのが嫌だった。
私の心を読み取ったかのように霧雨が降り出し、体が冷えた私は雨をさけるために遊具の中に入り込んで一人膝を抱えて座っていた。
もう、このまま一生この場所に座り込んでいたいと、そんな事を考えていたと思う。雨に打たれながら両親に対する恨み言は言いつくしてしまっていた。
次第に両親に対する恨みの感情が薄れ、ただ死にたいような憂鬱な気持ちに襲われていた。
このまま、この場所で死んでしまおうかと思っていた。誰にも見つけられず、誰にも心配されずこのまま朽ち果ててしまうなんて、誰にも必要とされていない自分にはぴったりな死に様のような気すらしはじめていた。
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