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「僕が祝ってあげるよ」
恵一が私に向かって言った。
「君の誕生日を僕が祝ってあげる。そうしたら、ほら君は必要とされていないなんて思わないでしょ? 約束するよ。これからずっと僕が君の誕生日を祝ってあげる」
恵一はにこりと笑って下手くそなバースデーソングを歌ってくれた。それは本当に下手くそで笑ってしまうぐらいだった。
私はくすくすと笑う。泣きながら笑う。
「下手くそ」
私の言葉に恵一が傷ついたような顔をした。
「でも、ありがとう」
「どういたしまして」
にっこりと恵一が笑う。私もつられて笑った。そして、恵一が差し出してくれていた手を握る。
私に声を掛けた時からずっと一度もその手を下ろさなかったその手を拒絶する事は私にはできなかったのだ。
その5歳の誕生日から毎年恵一は私の誕生日を欠かさず祝ってくれた。
プレゼントはあったりなかったりしたし、誕生日の日に一緒にいたりいなかったりした。けれど、必ず恵一は私に会いに来てくれて下手くそなバースデーソングを歌ってくれた。
「君が生まれてきて良かった」
毎年、欠かさず私にそう言ってくれた。その言葉はくすぐったく照れくさかった。そして、嬉しかった。
「思ってないでしょ」
照れ隠しに私が言うと、恵一は笑いながら「思ってるよ」と返す。
それが私の誕生日の恒例行事になっていた。
一度聞いたことがある。
「毎年、毎年、誕生日を祝いに来て嫌じゃないの?」
「嫌なことを続けられるほど僕は出来た人間じゃないよ」
「約束を守ろうとしてくれているだけなら無理しなくていいんだよ」
本当は無理してほしかった。やめてほしくなかった。でも、それを口にすることはできなかった。
「君がやめてほしいと言うまでは僕は祝い続けるよ。もしくは、僕の代わりに祝い続けてくれる人が現れるまではね」
きっと、現れないし現れてほしくもない。そう思った。
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