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そして22歳の誕生日。私は病院の病室に立っていた。
目の前にはベットに横たわった恵一がにこにこと私を見つめている。
「22歳の誕生日おめでとう」
個室の病室のテーブルの上には小さなケーキと花が飾り付けられていて「誕生日おめでとう」と書かれたプレートが置かれていた。
「本当は祝いに行きたかったんだけど、こんな状態だから君に来てもらうしかなかったんだ。許してほしい」
笑顔を絶やさないまま両手を広げて見せる。信じられないほど細くなった腕。触っただけで折れてしまいそう。病衣の下からちらりと見える胸元は骨が浮いて見えていた。
「……。無理しなくていいって言ったよね」
私は声が震えないようにしながら話すのが精一杯だった。私は恵一が入院してから一度もお見舞いに来たことがなかった。弱っていく恵一を見るのが怖かったからだ。
「君がやめてって言うまでは祝うって言ったよ」
「じゃあ、やめて!」
思わず叫んでいた。
「そんな無理してまで祝ってほしくない。自分の体を大事にしなきゃだめだよ!」
「そうだね。体を大事にしなくちゃいけないっていうのは僕が最初に君に言った事だったね」
苦笑しながら恵一が言う。
「君にやめてと言われたから今年で最後にするよ。君の誕生日を祝うのは」
「……っ」
やめてほしくない。そう叫びそうになるのを堪えた。そんな私のわがままで恵一を振り回していいわけがない。
恵一が下手くそなバースデーソングを歌い始める。相変わらず下手くそだ。17年経ってもちっとも上手くならない。
じっと恵一の歌を聞いて、聞き終わって私は言った。
「下手くそ」
目から水がとめどなく流れる。私はそれをぬぐおうともしない。ぬぐう気にもなれない。
「生まれてきてくれてありがとう」
「思ってないでしょ」
「思ってるよ。いつだって」
いつものやりとり。いつもの誕生日。
でも、いつもとは違う。
恵一の背中には絶望が。別れが。死が。
見え隠れしていた。
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