恋の病は治らない

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きりはらくん、というのは同じクラスの桐原 菖蒲(きりはら あやめ)のことを言っているのだろう。 棗とは正反対ともいっていいほどに性格から外見まで何もかもが違う男子生徒だ。 確か剣道部に所属していたはずで、身長が高くてあまり喋らないので威圧感があるけれど時折見せるさり気ない優しさと聞き上手な性格が女子に人気だ。 去年1年生ながら文化祭のミスターコンテストで優勝していた。 余談であるが棗は女装コンテストで優勝している。 「やっぱり気持ち悪いよね...」と弱々しい棗の声で私は我に返る。 よくよく顔を見ると真っ青で、正座した膝の上で握られた拳は微かに震えていた。 どれ程の覚悟を持って彼は私に伝えようと思ったのだろう。 彼の私に対する気持ちが好意でないにしろ、信頼するに値する人物として認識されているならそれでも構わないではないか。 私は慌てて、勢い余って身を乗り出しかけながら口を開いた。 「気持ち悪くない。棗に対してそんなこと思わない。いや、でも、棗は女の人が苦手だって言ったけれど、つまり...そういうことなの?」 「えっ違うよ!ちゃんとノーマル、だと自分では思ってたんだけれど、でも、すきになっちゃったんだよ...」「そうなの...で、どういった経緯でそんなことになったのか教えてもらってもいい?」 日直の時に黒板を消していたら届かない場所を消すのをさり気なく手伝ってくれたとか、体育の時間に怪我をしたらたまたま近くにいた桐原くんがおんぶして保健室へ連れてってくれたとか、授業中に居眠りしていて当てられてしまったときに答えを教えてくれたとか。 あんたは少女漫画のヒロインか。 と、突っ込みそうになり口を噤む。 「桐原くんって僕と違って男らしくてカッコイイしいいなぁって言ったら、柄沢はいつも周りのこと考えてて皆のこと笑顔にしてくれるし俺はそういうこと出来ないからいいなって思うよって...えへへ」 棗が少し照れくさそうに頭をかいてふにゃりと笑った。 彼とはそれこそ生まれたばかりの頃から一緒だけれど、こんな反応を見たのは初めてかもしれない。 しかし私は一応女だというのに、男に負けたのかと思うと一気に脱力する。 棗をすきな女子の皆さんももれなくご愁傷さま。
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