恋の病は治らない

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■■■■ 一体全体何がどうしてこうなってしまったのか私にも分からない。 それは文化祭、クラスの模擬店の片付けをひとりで行っていた時だった。 他のクラスメイトたちは最後に上がる花火を見るために校庭へと向かった。 棗も恐らく仲の良い男子生徒たちと見るだろうと思い、友人もおらず文化祭程度のしょぼい花火にも興味ない残念な私は黙々と教室の片付けに励んでいたのである。 さっさと片付けを始めればいいものを、文化祭でハイになったテンションではしゃぎまくる馬鹿ばかりで大幅に片付けが遅れている。 「私はさっさと帰って塾の予習をしたいのよ...!」なんて苛々しながら装飾を剥がしていく。 校庭から聞こえてくる楽しげな声も右から左へ流しつつ黒板周りの飾りを片付け始めた頃、ふいに教室後方の扉が開いた。 振り返ると、「日下部?」と私の名を呼ぶ低い声と共に桐原菖蒲が教室の中に入ってきたのだ。 何か忘れ物だろうか。 私が応えずに片付けを再開すると、桐原くんは真っ直ぐにこちらに向かってきて話を続ける。 「残りの片付け、後で皆でやろうって言ってたじゃないか」 「...花火どうでも良いし、特にすることがなくて退屈だったから。花火が終わってからにしていたらいつ帰れるか分からない」 我ながら嫌味じみた返答だが、これが私の性格なのだから仕方がない。 そしてこの物言いが棗以外の他者を寄せ付けない理由のひとつだと理解していても、治す気も特にない。 桐原くんは「そうか」と一言呟き、私の隣に立って片付けを始めた。 一瞬何が起きたのか分からずに手を止めて隣の男を凝視する。 「...桐原くん、花火見なくていいの?」 「ん、ああ...俺も正直どっちでもいいんだ」 「でも友だちとか、一緒にいなくていいの?」 すると桐原くんは少し困った風に笑った。 意図がつかめずに凝視し続けていると、彼は何だかむず痒そうに肩を揺すり飾りを手に持ったまま俯いてしまう。
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