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「まさかケンカをしてしまったとか?折角の文化祭なのに...早く仲直りをした方がいいと思う。こんな所で私なんかと片付けをしている場合では」
「いや違う。そうじゃないんだ、そうじゃなくて」
不自然に思いその顔を覗き込んでみると、視線を四方八方に飛ばしまくっているではないか。
何だ、何があったんだ。
ポーカーフェイスと名高い桐原くんのこんな様子は見たことがない。
まるで彼の混乱が私にもうつったかのように何故か焦ってしまう。
暫しお互いに無言のままでいるうちにとうとう花火が始まった。
「あ、花火...」
そして、私が窓側に視線を向けた直後。
背後から、はっきりとした声で、まごうことなく私に向かって言ったのだ。
「俺、日下部のことがすきだ」
今なんて言った?
とは流石に口はしなかったが、私は目を大きく見開いて振り返った。
桐原くんは握った右手で口元を隠しながら赤くなった顔を誤魔化すかのように、視線を下に向けて佇んでいる。
一度整理しよう。
私は先日、自分のすきな人に桐原くんをすきになったと告白された。
そして桐原くんは今、私がすきだと告白した。
「何て不毛な三角関係だ...!」
「え?」
「はっ、いえ、何でもない。でも、私は友だちもいなく、男女問わず煙たがられている優等生ぶりやがってウザイよお前的な立ち位置の人物だと思っているのだけれど」
「そ、それは自分を卑下しすぎじゃないか」
否、事実だ。
ペアを組めと言われれば余る側の人間だし、先生が黒板に書いた文が違うことを躊躇なく指摘してはウザっと小声で言われるし、そういう影でコソコソ悪口言う奴らに対して本人に面と向かってはっきり伝えろと言って更に嫌われるし。
「うん、私には学校のミスターコンテスト優勝者に好かれる要素が1ミリもない気が」
すると桐原くんは再び困ったように笑い、今度は完全に赤い顔を隠すように両手で顔を覆った。
「俺はそういう真っ直ぐで、はっきりとものを言える日下部の性格には好感を持てる。それから、柄沢と一緒にいる時の日下部が、とてもすきだ。普段と違って、穏やかな顔をしていて時々笑顔になる。その笑顔が、可愛くて...気づいたらすきになってた」
可愛いなんて棗にも言われたことがない。
絶望的に可愛げがないと親にまで言われ続けた私にとって慣れないその言葉は痒くて仕方なかったし、何より相手が赤面しすぎていてこっちまで恥ずかしくなる。
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