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ポーカーフェイス桐原はどこにいったのだ。
しかし、この桐原くんの言葉から私はある疑問が浮かぶ。
「待って。棗と一緒にいる私が、すき?まさか、もしかして、もしかしなくても桐原くんは私の気持ちを...」
「柄沢とは幼馴染みなんだろう。俺にはそういうのが居ないから羨ましい。日下部も柄沢には気を許しているんだな」
何でもないように告げられた言葉にすっ転びそうになった。
皆まで言わなくてよかった。
というか桐原くんは私をすきでよく見ている風を装っているくせに、私が棗をすきなことには気づかないのか。
ああ、そうか、弾かれ者の私をすきになった時点でどこかがだいぶズレているのだ。
どうしたらいい、なんて答えるべきだ。
混乱がおさまらない頭をどうにか落ち着かせようと、私は目の前の黒板に頭突きをする。
驚いた桐原くんが隣でビクリと肩を震わせているのが横目に入った。
「桐原くんの、気持ちは嬉しい。ありがとう。けれど、応えることはできない。私には、私は...い、今は学業を優先したいから、ごめんなさい!」
違う。
私は何を言っている。
すきな人がいるからごめんなさい、だろう。
いや、けれどここで下手にそう言って棗のことがすきだとバレてしまい、棗本人にそれが伝わっても面倒だ。
口から出てしまった言葉は撤回しようがない。
幸い桐原くんも苦笑しつつ「俺たち来年には受験生だからな」と、納得している。
「だ、だから、お友だち。まずはお友だちからはどうだろう。私、棗以外友だちいないし。って私と仲良くしてたら他の生徒がよく思わないよね」
「そっそんなことどうでもいい!友だちでいい。日下部と友だちに、なりたい」
お互いにオロオロとしながらぎこちない動作で連絡先を交換した。
桐原くんが私の番号を見つめたまま少し口元が綻んだのを見て、イメージしていた彼とは全然違うなと思っていた。
棗はこんな一面ももしかしたら知っていて、すきになったのかもしれないな。
「友だちになったのだから、俺のことも菖蒲と呼んでほしい。日下部にとっての柄沢みたいに、なれたらいいと思うし。俺のことゆっくりでいいいからもっと沢山知ってもらって、すきに、なってくれたら嬉しい」
不意打ちでそんなことを言われて思わず足の力が抜けかける。
ポーカーフェイスのイケメンが頬を赤らめながらデレるのはなかなかの威力を発揮すものだ。
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