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特効薬
昔っから体が弱くて、状態の悪い時は、ちょっと喋っただけでも体調に影響が出る程だった。
でも不思議とこの一年、俺は大きな不具合もなく過ごすことができた。
多分そのきっかけは、クラス替え初日のあのできごとだ。
新学年に上がり、新しい教室に移動した。それだけのことで疲弊し、座席に着いた時にはぐったりしていた俺の背に、突然誰かの手が触れてきた。
「具合悪そうだけど…大丈夫?」
顔を上げると、そこには見知らぬ女子がいた。心配そうに俺を見ている。
「アタシ、隣の席の大木美也子。おせっかいかもしれないけど、保健室とか行かなくていい? …そう。大丈夫ならいいけど、辛くなったらすぐ言って」
そう話かけてくる声が不思議と心地よく手、俺の具合の悪さは本当に治まっていた。
それから一年、ちょこちょこ具合が悪くなりかけるたび、大木は俺を案じて声をかけてくれた。その声を聞くだけで体も気持ちも楽になって、気づいたら、俺は医者が驚くレベルで体調がよくなっていた。
「今年もまた一緒のクラスだね。よろしく」
新学期。一緒のクラスになり、また隣の席になった大木がそう言いながら笑う。声もだけれど、にこやかなその表情も俺の気持ちと体を楽にする。
この一年、何かと俺を助けてくれた彼女。その間に芽生えて膨らんだ気持ちを伝えたら、この先もずっと一緒にいられるかな。
もう少し体が丈夫になって、胸を張れるようになったら彼女に好きだと告げたい。
いつも明るいキミの笑顔が、病弱だった俺の最高の特効薬です。
特効薬…完
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