発熱

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俺は寝ていた……のだ。 「──真弥?」 「ん?起きた?」 「何してんの?」 6畳一間、キッチン、バス・トイレ付きの1DK。 専門学校に通いながらバイトに精を出しつつ一人暮らしをしている俺は、珍しくシングルベッドの中で熱にうなされてこの2日間眠りこけていた。 バイト先の居酒屋で貰ったのか、それとも朝昼晩の寒暖差にやられたのか、健康そのものでめったに病気にならない俺は、酷い頭痛と発熱でまともに起き上がる事も出来ず、部屋に引きこもっていた。 「どうして……」 玄関には鍵をかけているはず、と言いたかったが、 「てっちゃんが呼んだから」 と掠れる声を遮りバイト仲間の真弥が含み笑いをしながら肩にすり寄り喋る。 寝返りもうてないほど狭くなったベッドの中……何故か真弥は俺の寝ている布団の中で添い寝をしていた。 「いや、だから、何してんの?」 まだ熱っぽい額に腕を乗せて現状を把握しようと思考を巡らせる。 ……考えても理解出来ない。 だって、真弥はただのバイト仲間だ。 短大に通う二十歳で明るくニコニコとよく笑う、人懐こい、猫のような丸い目をした色白のフツーの……彼女でもなんでもない、友人程度の付き合いしかしていない女のコ、のはず。
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