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秋の夜はもう風が冷たかったから、くっついているのは温かかった。
歓声が波打つように広がって、賑やかなパレードがはじまる。
皇輝達のいるところまでは、ぐるっと回った最後の方だからまだ音楽しか聞こえてこない。
紫音が緩慢な動作で身を起こした。少し気だるげに瞬いて皇輝を見上げる。綺麗な顔が近づいてきて、皇輝は目を閉じた。
おかげで、パレードが目の前に来るまで、皇輝はずっと紫音を押し倒したい衝動と戦うことになった。
音楽と周囲のざわめきが一気に高まる。
唇を名残惜しく離して、ゆっくりと夢を振りまきながら通過していくパレードを、2人で眺めた。
パレードの明滅する明かりに照らされた紫音の横顔は、たまに長い睫毛がふるりと震えて瞬くのがとても綺麗で、皇輝は途中からのぼせたみたいに見惚れてしまった。
ふ、と紫音がこちらを向く。
皇輝がほけっと自分に見惚れているのを見て、紫音は照れくさそうにはにかむ。そして少し目を伏せて、気恥ずかしさを払うように瞬きを繰り返した。
ー 俺、今日こいつとデートしてるんだよな。だから、こういう顔は独り占めできるのか。
気持ちが高まってしまって、ちゅ、とその唇を優しく奪ったら、一拍置いて下顎をめいっぱい押し上げられた。
「いてて、痛いっ、こら、紫音」
「パレード見てなよ。行っちゃうよ」
暗くても紫音が顔を赤くしているのが分かって、皇輝はにやけた。
皇輝の大切な人は、自分からは何気なくキスするくせに、皇輝からするとめいっぱい恥ずかしがって逃げようとする。
猫みたいな人だ。
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