六章

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 ワレスは考えた。 「その男が、ここに?」 「いや、違うんだ」  ジョルジュは首をふったのち、満足げに絵筆をおいた。  きれいに仕上がった水彩画を、ワレスに見せる。  病みあがりでやつれたワレスの、頬づえをついた姿が、けだるく描かれている。  ワレスが見てもいい絵だ。 「やはり、おまえは春画より、まともな絵が向いてるよ。こっちのほうが、おれを怒らせた絵より色気がある」 「ご当人のお墨付きか。よしよし。こいつは高く売れる」  売りさきが気になった。が、聞かれたくなかったのだろう。ワレスが問いただす前に、ジョルジュは話を続けた。 「質屋だがね。いつのまにか、皇都の店はたたんでしまってた。ボロをだして、危なくなったのかもしれないな。まさか、こんなとこで、また見かけるとは思ってもなかったよ。あんたも中庭に行ってみれば、会えるぜ。今度、輸送隊が来たときに」  二旬に一度、国内から物資を運んでくる輸送隊。天候などによって、予定日に来るとはかぎらない。大幅に予定が狂ってなければ、今度は二、三日後に来るだろう。 「輸送隊のなかの誰かか?」 「それについてくる服屋さ。質屋のあるじだったころ、店の外から見ただけだが、まちがいはない。バハーとか言ったかな。いやに白目が目立って、肌が浅黒い。純粋なユイラ人じゃないんだろう。いつも、東の馬屋近くに店をだしてる」  その男なら、ワレスも知ってる。笑った顔は温和だが、笑みが消えると、とたんに目つきがするどくなる。油断ならない男だと思っていた。  盗品を売りさばいていたというウワサのあった男が、商人として砦に出入りしている。そして、砦では盗難があいついでいる。とても、無関係とは思えない。 「その男が砦で盗まれたものを買いとっているのか。あるいは人を使い、計画的に盗ませている——参考になった。礼を言う」 「礼なら、こいつが、ものを言うさ」  ジョルジュはさも大事そうに、ワレスの絵を紙ばさみに入れた。  ワレスはちょっと不安になる。 「まさか、それ、おれのとこの中隊長に売るんじゃないだろうな?」 「さてね。客のことは秘密だよ」  ジョルジュは笑って、ウィンクをよこす。  ワレスはため息をついた。
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