48人が本棚に入れています
本棚に追加
夢から目ざめたいのだが、意識が混濁している。
誰かの声が夢のなかに入りこむ。
「苦しいですか? 隊長」
あれは、誰の声だったろう?
「変じゃないか。熱がさがらないぞ。すぐ効くと言ったろ」
「そりゃ言いましたけど。すぐと言ったって、五分や十分で効くわけじゃないですよ。それにしても、ちょっと遅いですね。いい薬なんですよ。これ」
「でも、現に効いてない。気のせいか、さっきよりひどくなったような。ロンド、ほんとに、あの薬でよかったのか?」
「失礼な。見習いとはいえ、わたくしだって魔術師のはしくれです。ほんとに、はしくれですけどね。病気を診るくらいできますよ。まあ、薬が効かないのは体質のせいですね。この人、特異体質みたいだから」
「特異体質……?」
「魔術師でないかたに説明するのは難しいんですが、なんていうか、魔術師むきのめずらしい体をしてるんです。もったいないことです。わたくしがこの体なら、今ごろは世界に名をはせる、だーい魔術師!——に、なってたかも。ああ……もったいない。もったいない」
「……そう言って、隊長のどこをさわってるんだ」
「おほほ。ツバつけとこうかしら」
「……ロンド?」
「そういうわけですので、このかたの体は薬が効きにくいんですよね。お酒、薬、毒などね。
人間には免疫力ってのがありまして、病気に対抗する力を、もともと誰もが持ってるんですよ。この人はその力が常人より、はるかに強いんです。自分で自分の体を最善にしておく機能がそなわってまして。病気もしないし、ケガなんかもすぐ治る。
魔術師のなかには、手足を切りとられても、新しいのが生えてくる人もいます。彼がそのタイプかどうかはわかりませんが。ほんとなら、こんなことで、かんたんに病気になる人じゃないんですがね。破傷風の毒くらい、自分で殺してしまうはずなんですけど」
「あんたの言うこと聞いてると、隊長が人間じゃないみたいな気がしてくる」
「凡人じゃないって意味ならね。だから、わたくし、前々から目をつけていたんです。ああ、このかたの血を半分でいいから、すすりたい……」
「ロンド!」
「あら、そんな青い顔しなくても、わたくし、そこまではいたしません。地下の先輩がたなら、そんなかたもいるかもしれませんが」
「…………」
「いやですねえ。ほんとに、しませんってば。わたくしはせいぜい、このかたに抱かれて、少しだけ精気をわけてもらいたいな……とか思うだけですよ。可愛らしいもんでしょ? 赤くなったり青くなったり、忙しいかたですね。まあ、そんなわけですから、わたくしてとしても、このかたのことは、なんとか助けてさしあげたいのですが」
「どうしたらいいんだ? 薬が効かないとなると?」
「古典的に頭を冷やして、体をあっためましょう。そして本人の回復力に期待するしかないですね。ケガの手当てはしておきますよ。化膿どめをぬって、足首には湿布して」
「体をあっためるって言ったって、どうしたら……」
「添い寝すればいいじゃないですか。もちろん、わたくしも手伝いますよ? 仕事があるので、いつもってわけにはいかないだけで……いえ、もう、仕事なんかどうでもいいかなぁ」
「いや、ありがたいけど、おれたちもいるから……」
「むっ。なんだか迷惑げ。心外ですぅ」
「隊長。しっかりしてください。必ずよくなってください。こんなことで、あなたを失いたくありません」
「無視ですか……」
熱いものが、ワレスの上からこぼれおちてきた。
涙……。
最初のコメントを投稿しよう!