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「そんなことはないさ。君がそう思いこんでるだけじゃないのかい? ねえ、ワレサ。僕がそんな迷信、ふきとばしてあげるよ。もう一度、親子になろう」
「ミスティ……」
「皇都に来て、まさか、君に出会うなんてね。昔、必死に探したときは、まったく消息もつかめなかったのに」
「探したのか。おれのこと」
「そりゃ探すさ。七つや八つの子どもが、一人でどっかに行ってしまったんだぞ。僕の財布から現金を全部ぬきだしていったのは、さすがだったが」
ミスティルが笑うので、ワレスも笑った。
ミスティは、ほんとに変わらない。昔から陽気な楽天家だった。
各地を放浪していた少年時代。最初に出会ったときは、ただの男娼と客だった。
ケンカもした。
ミスティは怒りっぽかったから。でも、子どもみたいに純粋だった。
「もう一度、やりなおそう。今度こそ、君にふさわしい父親になる。僕だって、あれから二十年。人生経験をつんだ。少しはマシな親父になれる」
「あんたは知らないんだ。おれがどんな人間か。あんたにふさわしくないのは、おれのほうなんだ」
すると、まったくの世間知らずだと思っていたミスティルが言った。何もかも見通したような、おごそかな微笑で。
「知ってるよ。君は子どもだった。ただ、けんめいに生きてきただけじゃないか」
ずっと、誰かにそう言ってもらいたかった気がする。
「ミスティ。おれ……」
「僕がゆるす。君は何も悪くない。世界中の人が敵にまわっても、僕は君の味方だ」
やっと見つけた。
おれの帰る場所。
あたたかく、おれを迎えてくれる人。
ミスティにしがみついて泣いた。
彼の明るさなら、ワレスの運命をくつがえしてくれるのではないかと思った。
もう一度、信じてみる気になった。
自分の未来の幸福を。
(でも……)
だめだった。
けっきゃく、ミスティルも……。
誰もいない。
おれのそばには、もう誰も。
みんな、おれを置いていくんだ。
いつも、一人。おれは一人……。
「おれがいますよ。隊長。おれが、ここにいます」
目の前に、ハシェドの顔がある。悲しみに、おぼれそうなワレスの手を、きつく、にぎしりしめている。
「ああ……そうだ。おまえがいる。どこにも行くな。ずっと、いてくれ……」
ハシェド。おまえは、ずっと、そばにいてくれ。
世界の果てで見つけた、おれの恋人……。
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