四章

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「そんなことはないさ。君がそう思いこんでるだけじゃないのかい? ねえ、ワレサ。僕がそんな迷信、ふきとばしてあげるよ。もう一度、親子になろう」 「ミスティ……」 「皇都に来て、まさか、君に出会うなんてね。昔、必死に探したときは、まったく消息もつかめなかったのに」 「探したのか。おれのこと」 「そりゃ探すさ。七つや八つの子どもが、一人でどっかに行ってしまったんだぞ。僕の財布から現金を全部ぬきだしていったのは、さすがだったが」  ミスティルが笑うので、ワレスも笑った。  ミスティは、ほんとに変わらない。昔から陽気な楽天家だった。  各地を放浪していた少年時代。最初に出会ったときは、ただの男娼と客だった。  ケンカもした。  ミスティは怒りっぽかったから。でも、子どもみたいに純粋だった。 「もう一度、やりなおそう。今度こそ、君にふさわしい父親になる。僕だって、あれから二十年。人生経験をつんだ。少しはマシな親父になれる」 「あんたは知らないんだ。おれがどんな人間か。あんたにふさわしくないのは、おれのほうなんだ」  すると、まったくの世間知らずだと思っていたミスティルが言った。何もかも見通したような、おごそかな微笑で。 「知ってるよ。君は子どもだった。ただ、けんめいに生きてきただけじゃないか」  ずっと、誰かにそう言ってもらいたかった気がする。 「ミスティ。おれ……」 「僕がゆるす。君は何も悪くない。世界中の人が敵にまわっても、僕は君の味方だ」  やっと見つけた。  おれの帰る場所。  あたたかく、おれを迎えてくれる人。  ミスティにしがみついて泣いた。  彼の明るさなら、ワレスの運命をくつがえしてくれるのではないかと思った。  もう一度、信じてみる気になった。  自分の未来の幸福を。 (でも……)  だめだった。  けっきゃく、ミスティルも……。  誰もいない。  おれのそばには、もう誰も。  みんな、おれを置いていくんだ。  いつも、一人。おれは一人……。 「おれがいますよ。隊長。おれが、ここにいます」  目の前に、ハシェドの顔がある。悲しみに、おぼれそうなワレスの手を、きつく、にぎしりしめている。 「ああ……そうだ。おまえがいる。どこにも行くな。ずっと、いてくれ……」  ハシェド。おまえは、ずっと、そばにいてくれ。  世界の果てで見つけた、おれの恋人……。
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