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「なんだか、また気分が悪くなってきた」
「大丈夫ですか? ひどく、うなされておいででしたからね」
そう。ひどい夢を見た。
「……寝言を言ったかな?」
「言った。言った。悪魔とか、死ぬとか、つれてくなとか、神さまとか。あんた、よっぽど死にたくなかったんだね」と言ったのは、エミールだ。
ハシェドが答えないのは、なぜだろうか。
よくおぼえてないが、言ってはいけないことを口走らなかっただろうか?
ワレスは不安になった。
エミールは気づいてないようで、まだ続ける。
「大変だったんだよ。体をあっためなきゃいけないってんで、あんたのこと、ずっと抱いてさ。おぼえてる?」
「おぼえてるわけないだろ。それより、食事だ。エミール」
「はいはい」
エミールが出ていくと、部屋には、ハシェドと二人きりだ。いつのまにか、アブセスとクルウもいなくなっていた。
二人きりなのをいいことに、ワレスはカマをかける。
「おれが夢で見たときは、おまえだったような気がしたんだが」
「何がです?」
「おれを抱いて、となりにいたのが」
「ああ……すいません」
「なんで、あやまるんだ?」
「それは……隊長は、おれにさわられるのがお嫌いのような気がして」
「おれがいつ、そんなことを言ったんだ?」
「いや、言われたわけじゃないですが……たいていのユイラ人はそうですから」
ワレスは手招きした。
ためらうように、ハシェドは枕元の椅子にすわる。
「おれは、おまえの太陽の香りのする肌が好きだ。前にも言ったはずだ」
ワレスはよこたわったまま、寝具のなかから手をのばす。ハシェドの手をにぎりしめた。
「夢のなかで、こうして手をにぎってくれたな? 嬉しかったよ……そう。とても、心細い夢を見てたから」
ワレスはハシェドの手を、寝具のなかへ引きこんだ。
悲しい夢を立て続けに見たから、つい、甘えてしまった。
ハシェドは顔をしかめた。
不愉快なのを我慢しているように見える。
「ハシェド?」
ハシェドの手が、するすると逃げていく。
思わず、追いかけて手を伸ばす。にぎりしめようとすると、サッとかわされた。
「……ハシェド」
「あ、いえ……すいません」
ハシェドは動揺している。
(やっぱり、そうなのか。何か口走ってしまったのか? ハシェドに軽蔑されるようなことを?)
たとえば、あの寒い冬の日のことを……?
気まずい数分。
ハシェドが思いきったように口をひらく。
「ワレス隊長——」
言いかけたときだ。
ドアをたたく音がした。
メイヒルをつれた、ギデオン中隊長が入ってくる——
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