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兵士の賃金は日給月給だ。月の初めに前月分を支払われる。金貨かそれにかわる券か、どちらかを選択できる。
券は国内の役所に正しい受取人である証明書とともに持っていけば、いつでも金貨と交換してくれる。
他人が詐取するのは、まず不可能な細工があれこれしてある。だが、偽造文書作りの名人にかかれば、案外ということもある。
なにしろ、傭兵の賃金は、一番下の平兵士でも、一日金貨一枚。ひとつきなら四十枚だ。金貨四十枚といえば、小商人がコツコツ働いて、一年で稼げるかどうかという金額だ。詐取できるなら、これほど効率のいいものはない。
「まだ調べてはおりませんが、おそらく安全でしょう。鍵がかかったままになっていましたから」
そう言って、ワレスは戸棚に造りつけの引出しの鍵を、なにげなく外した。
知恵の輪の鍵。
かんたんには折ったり切ったりできない頑丈なものだ。はずしかたを知らない者には、ふつうの錠前よりやっかいだろう。
皇都で何年か前、そういうものが流行った。
「この引出しに入れて——」
言いかけて、ワレスは自分の目を疑った。
バカな。そんなバカな。
ここには、おれの換金券と宝石が入っていたはずだ。
どうして、こんなことが……。
ぼうぜんとするワレスの背後に、ギデオンが立った。ワレスの手元をのぞき、表情を険しくする。
「これはなんだ? ワレス小隊長?」
ギデオンの手がそれをつかみだす。
傭兵なら誰でも見まちがえはしない。
水色の封筒。
傭兵の命の代価とも言える換金券が、たばになって入っていた。
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