五章

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「全部、番号がことなる。おまえの物ではないということだ」 「知らない」  ワレスは首をふった。 「しかし、これはここにあった。この現実をどう説明する?」  ワレスには答えられない。  ギデオンがワレスの肩を押した。 「どけ。おれが調べる」  五つの引出しのうち三つから、全部で二十枚以上の封筒が出てきた。 「おまけに、財布もある」  白い革に金のバックルの瀟洒(しょうしゃ)な金入れ。  もちろん、ワレスには身におぼえがない。 「違う。おれじゃない……」  ほとほとマヌケに首をふることしかできなかった。  ギデオンはワレスを見ながら、優越感に満ちた口調で言った。 「この件は内密にしておく。これは、おれの手から持ちぬしに返しておこう」  それを聞いて、初めて、ワレスは気づいた。 (はめられた——)  これは罠だ。  まんまと、はめられたんだ。この男に。 (よくもやりやがったな。おれを盗人に仕立てあげ、秘密にすることで、代償をもとめてくる気か。おれがこばめないようにするつもりだ)  嫌われれば嫌われるほど、どうしても欲しくなると言っていた。ギデオンなら、ワレスを手に入れるためなら、このくらいのことは平気でするだろう。 (鍵は知恵の輪だからな。はずしかたさえ知ってれば、誰にでもあけられる。この部屋を以前、使っていたのは、第二小隊の隊長だったコイツだ。間取りも知ってる。手早くすませられたはず)  ワレスは黙って、ギデオンをにらみつける。 「何か言いたそうだな。小隊長」 「これは身におぼえのないことです。必ず、この私の手で、潔白の証を立ててみせます」  ギデオンは楽しむように微笑する。 「いいだろう」  言い残すと、メイヒルをつれて出ていった。  しかし、もしこのとき、廊下に出たギデオンとメイヒルの会話を聞いたら、ワレスはいっそう混乱しただろう。 「見たか? メイ。あいつのあの悔しそうな顔」  ギデオンはワレスの前では決して見せない、快活な笑顔で言った。 「まるで、おれが隠したんだと言わんばかりだ。いや、案外、そう思っているのかもな」 「はい。おそらくは」 「今さら憎まれることはかまわんが。しかし、気になる。誰がなぜ、あいつに罪を着せようとしたのか」 「では、中隊長は、ワレス小隊長の言いぶんを信用なさるのですか? 自分がやったのではないという彼の主張を?」  ギデオンは真顔になった。 「本気で言ってるのか? メイ。あいつがしたことなら、どんな理由をつけてでも、あのとき、おれの前で鍵をあけはしなかっただろう。よりによって、地獄の番人より忌み嫌う、このおれの前でな。やつは中に入ってるものを知らなかったんだ」 「さようですね」 「まあいい。どっちにしろ、面白いことになりそうだ。誰のしたことでもいい。利用させてもらおうか」  ギデオンは淡く吐息をつく。 「じっさい、ああまで嫌われているんだからな。まっさきにおれを疑うとは、小憎らしいやつだ」  メイヒルは従順に頭をさげる。
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