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「全部、番号がことなる。おまえの物ではないということだ」
「知らない」
ワレスは首をふった。
「しかし、これはここにあった。この現実をどう説明する?」
ワレスには答えられない。
ギデオンがワレスの肩を押した。
「どけ。おれが調べる」
五つの引出しのうち三つから、全部で二十枚以上の封筒が出てきた。
「おまけに、財布もある」
白い革に金のバックルの瀟洒な金入れ。
もちろん、ワレスには身におぼえがない。
「違う。おれじゃない……」
ほとほとマヌケに首をふることしかできなかった。
ギデオンはじろじろワレスを見ながら、優越感に満ちた口調で言った。
「この件は内密にしておく。これは、おれの手から持ちぬしに返しておこう」
それを聞いて、初めて、ワレスは気づいた。
(はめられた——)
これは罠だ。
まんまと、はめられたんだ。この男に。
(よくもやりやがったな。おれを盗人に仕立てあげ、秘密にすることで、代償をもとめてくる気か。おれがこばめないようにするつもりだ)
嫌われれば嫌われるほど、どうしても欲しくなると言っていた。ギデオンなら、ワレスを手に入れるためなら、このくらいのことは平気でするだろう。
(鍵は知恵の輪だからな。はずしかたさえ知ってれば、誰にでもあけられる。この部屋を以前、使っていたのは、第二小隊の隊長だったコイツだ。間取りも知ってる。手早くすませられたはず)
ワレスは黙って、ギデオンをにらみつける。
「何か言いたそうだな。小隊長」
「これは身におぼえのないことです。必ず、この私の手で、潔白の証を立ててみせます」
ギデオンは楽しむように微笑する。
「いいだろう」
言い残すと、メイヒルをつれて出ていった。
しかし、もしこのとき、廊下に出たギデオンとメイヒルの会話を聞いたら、ワレスはいっそう混乱しただろう。
「見たか? メイ。あいつのあの悔しそうな顔」
ギデオンはワレスの前では決して見せない、快活な笑顔で言った。
「まるで、おれが隠したんだと言わんばかりだ。いや、案外、そう思っているのかもな」
「はい。おそらくは」
「今さら憎まれることはかまわんが。しかし、気になる。誰がなぜ、あいつに罪を着せようとしたのか」
「では、中隊長は、ワレス小隊長の言いぶんを信用なさるのですか? 自分がやったのではないという彼の主張を?」
ギデオンは真顔になった。
「本気で言ってるのか? メイ。あいつがしたことなら、どんな理由をつけてでも、あのとき、おれの前で鍵をあけはしなかっただろう。よりによって、地獄の番人より忌み嫌う、このおれの前でな。やつは中に入ってるものを知らなかったんだ」
「さようですね」
「まあいい。どっちにしろ、面白いことになりそうだ。誰のしたことでもいい。利用させてもらおうか」
ギデオンは淡く吐息をつく。
「じっさい、ああまで嫌われているんだからな。まっさきにおれを疑うとは、小憎らしいやつだ」
メイヒルは従順に頭をさげる。
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