五章

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 *  翌朝。ワレスの部屋。 「あーん、もう! おれ、悔しいよ。なんだってこんなことになったのさ? おれ、泣いちゃう」  食事を運んでくるなり、エミールがわめく。  まだベッドでよこになっていたワレスに、しがみついてくる。 「頭にひびく。大声を出すな」  ワレスはそのウワサを、すでにアブセスから聞いていた。ムッとしてさえぎる。 「そんな泣きごとは聞きたくない」 「だって、みんな、ウワサしてるよ。泥棒の正体はあんただって!」  この部屋ではそのことで、朝一番にひと悶着あった。  今の第一分隊になってから、任務時間が夕方から真夜中までに変わっている。それによって、朝起きて夜眠るという、ふつうの時間帯に生活が変化した。  その、朝の早いうち—— 「小隊長  私は隊長を見損ないました!」  顔を洗いに出ていったアブセスが、帰ってくるなり叫んだ。  室内では、ワレス、ハシェド、クルウがまだ眠っていた。この声で、いっせいにとびおきる。 「朝から、なんだ?」 「しらばっくれないでください! 私は隊長を尊敬していました。その若さで、みるみる小隊長にまで昇進され、判断は的確、怪物相手にもされない。いばりちらさないし、冷たいように見えて、ちゃんと人情も持っていらっしゃる。これほどそばに置いていただき、ひそかに光栄に思っていました。それが……なんですか。盗人ですって? 恥知らずにもほどがあります!」  言うだけ言って、アブセスは肩で息をする。よほど急いで戻ってきたのだろう。 「誰がそんなことを言っていた?」 「誰だっていい! ちゃんと説明してください。あなたの引き出しから、盗まれていたものが見つかったというのはほんとですか? 事としだいによっては、あなたの下にはいられません! 私は……私は、こんな人を尊敬していたなんて……」  わあッと、アブセスは号泣しはじめる。  ワレスは青年の純情に、怒るのも忘れてあきれはてた。  事情を知っているハシェドが、困りきった顔をしている。 「ワレス隊長……」 「ああ。あのことだろうな」  涙で顔をグショグショにしながら、アブセスが食いついてくる。 「なんですかッ? あのこととは」 「ハシェド。説明してやれ」 「はあ。ですが……」 「しかたあるまい。ここまで知られてしまっては」  不承不承、ハシェドが昨日の一件を語る。 「では、ウワサは本当なんですね? あなたはそれを認めるんですね? 小隊長」  すると、いきなり、ハシェドがアブセスを平手打ちした。ワレスはおどろいて見つめる。  アブセス自身も、温厚なハシェドが、まさか、なぐるとは思ってなかったのだろう。ぽかんと口をあけて、何度もまばたきする。
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