一章

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 ワレスの第二小隊は、これまで、あまりいい成績をあげてない。ワレスの隊には新入りか多いからだ。  コリガン中隊長が亡くなり、ギデオンが後釜になったとき、ギデオンは自分の息がかかった者を全員、第一小隊につれていってしまった。  ワレスは、そのギデオンのあとを継いで小隊長になった。したがって、配属替えや、穴埋めの新参者が多い。戦力の点でやや劣る。  ワレスがやっきになって部下を特訓したので、今回、ようやく最終戦まで勝ち残った。  ワレスとしても、部下たちが見守るなか、ここで負けるわけにはいかない。 「参る」  さっきのハシェドの試合のようすから、受け身にまわると不利な相手だ。  ワレスは最初(はな)から積極的に攻めていった。アシャールが剣をふりあげる前に横手にかけこみ、ガラ空きの銅に抜き身で切りつける。  アシャールはあわてて剣をおろし、受けとめようとする。もちろん、そう来るのはわかっていた。  装備はワレスもアシャールも、革鎧(かわよろい)と剣だけだ。盾は持っていない。  攻撃をふせぐには、剣でとめるしかないわけだ。  予想どおり、おろしてきた剣を、ワレスは上から叩きつけた。  からりと、アシャールの手から剣が落ちる。  あっけない。 「一本!」  ギデオンの判定が入ると、ワレスの隊から歓声があがった。 「やったぜ。小隊長!」 「今度こそ、勝てるかもな」 「いい勝負になってきた」 「これまで、第一小隊の勝ち続きだからな。このさい、うちの隊でなくてもいいや。いっぺん、あのメイヒル小隊長の参ったって顔、おがんでみたいぜ」 「にしても、あの第二小隊の隊長、なかなか、やるぜ。アシャールは第一じゃ、きっての腕だぜ」 「なにしろ、砦に来て、たった三月で小隊長になったんだろ? あのワレスって小隊長」 「あんな女みたいな優男なのになあ。おれは毎回、あの隊長を見るのが楽しみでね」 「おお、眼福。眼福」 「あの目で見られると、なんか、ドキドキするんだよな」  そんな声も聞こえる。  世界で、もっとも神々に寵愛される民族と呼ばれ、美しい造形をほこるユイラ人。  ワレスはユイラ人のなかでも、とくに目をひく美形だ。  長身でエレガント。  気品のある顔立ち。  雪のように純白の肌。  瞳に独特の特徴があるのも、いっそう神秘性を高めている。瞳じたいが光を放っているかのような、不思議な輝きのある青い双眸だ。  これが、ワレスの冷ややかな美貌によくあう。  砦に兵士は多いが、女はわずかに数十人。一万五千に対しての数十だ。ふだん、兵士は女を見ることさえない。したがって、ワレスのような容姿をもつ若い男は、ほとんどアイドルだ。けっこう、ふつうに恋文を渡されたりする。 「おっ。メイヒル小隊長のおでましだ」 「あの二人が並ぶと、きらびやかでいいね」 「おれはやっぱ若いぶん、ワレス小隊長のほうが勝ると思うな。美男って点じゃな」 「なにしろ、あのブロンドはズルイよな。お日さまさんさん、髪はキラキラ、目もキラキラ。でもよ。夜はわかんねえぜ」 「夜?」 「バカだな。知らねえのか? 今度の中隊長の趣味を。抱き心地のことだよ」 「ああ。そんなの、みんな知ってるだろ。メイヒル小隊長ってのは、中隊長の……だろ?」  くすくすと笑い声。 「じゃあ、これは知ってるか? 中隊長がワレス小隊長にすっかり惚れこんじまって、ふられっぱなしだって」 「だろうねえ。おれたちが見ても女みてえだもんな。ユイラ人ってのは、どうして、ああ細っこいのかね。肌はすべすべだしよ」 「あれで二十と七とは信じらんねえな。ユイラ人ってのは、ほんと若く見える」 「中隊長がうらやましいぜ。両手に花か」
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