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盗品の売買をしている人物がわかれば、盗人の正体をつきとめるのも楽になる。その商人とひんぱんに売り買いしている客をさがせば、目星がつく。
それには、やたらと聞きまわっては、勘づかれる恐れがある。商人とその客が取引している瞬間を押さえなければならない。
(すると、二、三日後か)
それまでは、盗難の被害届けでも調べているしかない。
(中隊長のところへ行かなければならないのか)
イヤだが、さけてるわけにはいかなかった。書類は古くなれば大隊長に送られるが、当面は中隊長の管理だ。
被害の出かたで何かわかるかもしれない。一度はギデオンの部屋へ行かなければ。
先送りしていても、しかたない。
ワレスはその足で、東の内塔の最上階にある、ギデオンの部屋にむかった。
以前はコリガン中隊長が使っていた部屋だ。
ワレスはエミールとのかかわりで、二、三度、そこをおとずれたことがある。
当時はやわらかい色調の気持ちいい部屋だった。今はどうなっていることだろう。
扉をたたく。
ギデオンの声がこたえた。
「誰だ?」
「第二小隊長のワレスであります。中隊長殿にお時間をいただきたいのですが」
しばし、無言。
やがて、なかからドアがひらく。
ワレスを迎え入れたのは、メイヒル小隊長だ。
「どうぞ」
仮面のように表情のない顔で、メイヒルは言う。
なかへ入ると、ギデオンは机に向かっていた。書類を書いている。
古い壁かけと絨毯が変わっている。色調は暗いが、趣味のよさは認めなければなるまい。
ベッドは二つ。
たぶん、ギデオンとメイヒルで一室を使っているのだ。
「失礼いたします。中隊長」
「中隊長になると、文書の仕事が増えてつまらんな。おれは剣をふるってるほうが性にあう」
ギデオンはペンを置き、ふりかえった。ワレスを見て、ニヤリと笑う。
「なんの用だ? あきらめて、おれのものになりにきた——という顔ではないな。ウワサなら、おれのせいではない。あれについては、おれも遺憾だ。立ち聞きしていた者がいたようでもなかったが」
それは真実だろう。
秘密を暴露することで、ギデオンが得るものは何もない。
しかし、ウワサを流した人物と、ワレスに罪をかぶせた人物は別人かもしれない。
それなら、書類を調べたところで、すでに証拠は、ギデオンににぎりつぶされている——という可能性もある。
「もちろん、私は中隊長を信じております。そこで、この一年の盗難届けを見せていただきたいのですが」
ギデオンは笑った。
「今日はおとなしいな。まあ、すわるといい——メイヒル。ワレス小隊長に飲み物をだしてやれ」
文机のほかに長卓がある。
ギデオンはその席をさししめす。
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