一章

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 ギデオンの男色家としての趣味は有名だ。長年、ギデオンの右腕をつとめる、メイヒルの女性的な容貌を見れば、誰しもかんぐりたくなる。  年はワレスより三、四つ上だろうか。  ストレートのブロンド。  忘れな草色の瞳。  小作りで女っぽい顔立ち。  正規兵によくいるような、きまじめなタイプだと、表情から見てとれる。  だが、その目が、ワレスを見るときだけ変わる。切るような冷たい目だ。  メイヒルのギデオンを見る目つきから言っても、兵士たちのウワサは真実なのだろう。 (おれもあんな目をして、ハシェドを見てるんだろうか?)  そんな思いが胸に浮かぶ。  その胸のざわめきが消えないうちに、ギデオンが言った。 「第一小隊長メイヒル。第二小隊長ワレス。両者の対戦をもって、本日の勝敗を決する。勝負はこれまでどおり、一本勝負——始め!」  集中できてなかったワレスは出遅れた。  試合では、対戦相手を傷つけてはならないというルールがある。真剣だが寸止めだ。  だが、メイヒルの剣には殺気がこもっている。わざとワレスを傷つけようとしていた。勝負をつけるために、ふつうに狙うところを狙ってくるのではない。顔や足など、致命傷にならず傷つけることのできるかしょを、しつこく狙ってくる。 「なんか変だな。今日のメイヒル隊長」 「ああ。技が小さいってか」 「でも、気迫はあるぜ」 「ワレス隊長が牽制(けんせい)してるせいだろ?」 「あッ。ワレス隊長が足をとられた!」  兵士たちも、どこかいつもと違うものを感じて不安げに見ている。  注目のなか、ワレスはメイヒルの突きをよけそこね、足をすべらせた。  するどい突きが、そのまま鼻先に迫る。  殺される——  ワレスが思った瞬間、ギデオンの声が響いた。 「そこまで!」  メイヒルの剣が、ワレスの頰をかすめて止まる。 「勝負あり! 本日の勝利は第一小隊」  失望の声が部下たちのあいだで起こる。  ワレスはそれを、無様(ぶざま)に石畳に倒れたまま聞いた。 (こいつ。おれを切り刻むつもりだった)  ワレスはメイヒルと静かに、にらみあう。  ギデオンが声をかけてきた。 「メイヒル。これは試合だぞ。やりすぎるな」  メイヒルはワレスを無視して剣をおさめた。 「申しわけありません。ワレス小隊長がなかなか使うので、つい本気になってしまいました」  違う。つい我を忘れたとか、そんな感じではなかった。  だが、腹は煮えるが、いつまでも石畳に這いつくばっているわけにもいかない。ワレスは立ちあがり、剣をひろう。
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