48人が本棚に入れています
本棚に追加
ギデオンの男色家としての趣味は有名だ。長年、ギデオンの右腕をつとめる、メイヒルの女性的な容貌を見れば、誰しもかんぐりたくなる。
年はワレスより三、四つ上だろうか。
ストレートのブロンド。
忘れな草色の瞳。
小作りで女っぽい顔立ち。
正規兵によくいるような、きまじめなタイプだと、表情から見てとれる。
だが、その目が、ワレスを見るときだけ変わる。切るような冷たい目だ。
メイヒルのギデオンを見る目つきから言っても、兵士たちのウワサは真実なのだろう。
(おれもあんな目をして、ハシェドを見てるんだろうか?)
そんな思いが胸に浮かぶ。
その胸のざわめきが消えないうちに、ギデオンが言った。
「第一小隊長メイヒル。第二小隊長ワレス。両者の対戦をもって、本日の勝敗を決する。勝負はこれまでどおり、一本勝負——始め!」
集中できてなかったワレスは出遅れた。
試合では、対戦相手を傷つけてはならないというルールがある。真剣だが寸止めだ。
だが、メイヒルの剣には殺気がこもっている。わざとワレスを傷つけようとしていた。勝負をつけるために、ふつうに狙うところを狙ってくるのではない。顔や足など、致命傷にならず傷つけることのできるかしょを、しつこく狙ってくる。
「なんか変だな。今日のメイヒル隊長」
「ああ。技が小さいってか」
「でも、気迫はあるぜ」
「ワレス隊長が牽制してるせいだろ?」
「あッ。ワレス隊長が足をとられた!」
兵士たちも、どこかいつもと違うものを感じて不安げに見ている。
注目のなか、ワレスはメイヒルの突きをよけそこね、足をすべらせた。
するどい突きが、そのまま鼻先に迫る。
殺される——
ワレスが思った瞬間、ギデオンの声が響いた。
「そこまで!」
メイヒルの剣が、ワレスの頰をかすめて止まる。
「勝負あり! 本日の勝利は第一小隊」
失望の声が部下たちのあいだで起こる。
ワレスはそれを、無様に石畳に倒れたまま聞いた。
(こいつ。おれを切り刻むつもりだった)
ワレスはメイヒルと静かに、にらみあう。
ギデオンが声をかけてきた。
「メイヒル。これは試合だぞ。やりすぎるな」
メイヒルはワレスを無視して剣をおさめた。
「申しわけありません。ワレス小隊長がなかなか使うので、つい本気になってしまいました」
違う。つい我を忘れたとか、そんな感じではなかった。
だが、腹は煮えるが、いつまでも石畳に這いつくばっているわけにもいかない。ワレスは立ちあがり、剣をひろう。
最初のコメントを投稿しよう!