一章

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 ワレスが皇都でジゴロでならしてたのは、ほんの半年前だ。  その自分が、年も近い同性を愛して、ちょっと目があっただけで小娘みたいに胸をときめかせているのだから、ざまはない。  ワレスはごまかすために、話題をもちだした。 「それにしても、あいつ。こんなまともな趣味もあったんだな。好みの部下を物色するだけではなかったのか」  ギデオンのことを言ったのだが、これは自分にもあてはまる。言ってしまってから気づき、ワレスはまた恥ずかしくなる。  よせばいいのに、 「中隊長のことだぞ」  つけたして、いよいよ不自然な気がしてくる。  でも、ハシェドは怪しまなかったようだ。 「試合ですね。そういえば、ワレス隊長が来られてからはなかったですね。じつは前にも何度かあったんですよ。けど、やっぱり、小隊じゃ人数も少ないし、あんまり面白くなかったんでしょうね。第一分隊には、よく稽古をつけておられましたよ。メイヒル小隊長を鍛えたのも、中隊長だと聞きますし」 「メイヒルか。おとなしそうな顔して、剣を持たせると、すきがない」 「砦に来て五、六年にはなるらしいですからね。おれが二年前に来たときには、もう古参に入る人でした」  毎日のように人が死んでいく砦では、一年いれば、ベテラン。二年で古株だ。ことに夜の見まわりや危険な任務の多い傭兵は、運が悪ければ数日で死ぬ。  ハシェドは続ける。 「以前、言いましたよね。おれが上官をなぐって謹慎をくらったって。あれ、メイヒル小隊長のことです。いや、ほかにも、なぐったやつはいるので、そのなかの一人と言うべきですね。来たばかりのころはケンカっぱやかったから」  からからと、ハシェドは笑う。  今のハシェドからは想像もつかない。 「おまえが?」 「そりゃもう、毎日みたいにケンカしてましたよ」 「家族のことを侮辱されたからだと言っていたな。あのメイヒルが?」  ハシェドは少し顔をゆがめた。 「おれのことをバカにしないユイラ人はいません」  雪でできた人形のように白いユイラ人のなかで、ハシェドの褐色の肌は、さぞ奇異の目で見られるだろう。 「おれは、おまえの陽光の香りのする肌が好きだが」 「もちろん、隊長は別であります!」  あわてて、ハシェドが笑顔をつくる。  あまり語らないが、人種的な偏見は、ハシェドを幼いころから苦しめてきたはずだ。  抱きしめたい衝動をこらえるのに、ワレスは苦労した。 「だから——」と、ハシェドが言う。 「嬉しかったです。初めて会ったとき、隊長がおっしゃったこと。おぼえてますか?」  初めて会ったとき?  ワレスには、とくに心当たりはない。  おれが何か言ったかと聞こうとして、にぎやかな声にさえぎられた。
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