とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

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羽鳥は、名前を呼ばれて視線を戻した。 「なんだ、円花」 水か、と聞けば違う、と首を振られた。 「もういいから、離れてろ」 俺の看病なんかしなくていいから、と顔をしかめた円花に、羽鳥はさらりと即答する。 「俺の最優先事項は、円花、おまえだ」 「――~~~~ッ、おまえな、そういうことさらっと言うな!」 「何故だ」 「恥ずかしいだろっ!」 よくそんな真顔で、と円花は羽鳥を睨みつけながらも、布団を目元まで引っ張りあげて表情を隠した。 はてなと首を傾げた羽鳥は、布団から覗く円花の瞳を見つめる。 「どうした円花、顔が赤いぞ。熱が上がったか」 「おまえのせいでな!」 さっと表情を変えた羽鳥が、スッと経口補水液を差し出してくる。 「やはり、水分を……」 「いらない!」 間髪入れずに断った円花は、それきり壁の方を向いて目を閉じた。 *** 「ミヤ子――」 控えめにノックをしてからそっと部屋の扉を開けて、目に入ってきた光景に晴海と東雲は足を止めた。 「ハル、東雲」 静かにして、と唇に人差し指を当てて注意を促した雨宮は、入り口で佇む晴海と東雲に小声で囁いた。 雨宮は自分のベッドではなく、深雪のベッドに腰かけていて、壁にもたれて座る彼女の膝の上では、深雪が静かな寝息を立てていた。 まるで子どもをあやすかのように、一定のリズムでトントンと優しく深雪の腕を叩く雨宮に、晴海はそっと近づいた。 「ミヤ子、もう起きて大丈夫なのか?」 「うん。熱も下がったし、大丈夫だよ」 「それで、この状況についての説明は?」 「待って。……ユキちゃん、今やっと眠りについたばかりだから」 起こさないで上げて、と優しい声音で囁いた雨宮に、晴海はおとなしく引き下がった。 出直すか、と苦笑した晴海を見て、次いで部屋の入り口で心配そうな表情のまま佇んでいた東雲を見やった雨宮は、ふと口元に笑みを浮かべた。
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