とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

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何かたくらんでるな、と内心で呟いた晴海が黙って見守っていると、雨宮は東雲にこっち来てと手招きした。 怪訝そうな顔をしながらも部屋に入ってきた東雲に、自分の隣に腰かけるように促し、雨宮は晴海に視線をやった。 雨宮のやりたいことを察した晴海は、細心の注意を払ってそうっと深雪の頭を支え、雨宮の膝の上からわずかに浮かせた。 「……東雲バトンタッチ」 そう囁いてベッドから降りた雨宮は、事態を察して硬直した東雲を晴海とともに、早くと急かして半ば強引に膝枕を交代した。 東雲は、後はよろしく、と無責任に放り投げた雨宮を睨みつつ、どうしたらいいんだ、と目で晴海に助けを訴えてみたが、頑張れ、と笑顔でぐっと親指を立てられた。 そのまま晴海と雨宮が部屋を出て行ってしまったので、東雲は途方に暮れるしかなかった。 *** 誰かに名前を呼ばれたような気がして、深雪の意識は微睡から目覚めた。 「……みや、ちゃん……?」 いつの間に眠ってしまったのだろうかと、ぼんやりとする頭のままわずかに身じろぎすると、予想外に低い、けれども心地よい声音が返ってきた。 「……雨宮じゃなくて悪いな」 視線を上げた先にあった雨宮、ではなく東雲の顔をまじまじと見返して、深雪が呆然としたように呟いた。 「……しののめ、くん……?」 何度も目を瞬かせて、これは夢だろうかとでも思っているのだろうか、深雪がおそるおそるというように、東雲の方へ手を伸ばしてきた。 「なにしてるの……?」 まだ意識が夢うつつな様子で頬に触れてきた深雪の手に、そっとおのれの手を添えながら、東雲が淡々とした、けれどもいつもより少し柔らかな口調で答えた。 「……雨宮に代役を頼まれてな」 東雲の言葉をゆっくりと頭の中で反芻して、眠る直前まで雨宮と過ごしていた記憶を思い出し、ようやく東雲の膝を枕にして寝ていたことに気が付いた深雪は、慌てたように起き上がろうとした。 「――ッ、ごめんなさい! ……あれ? 私、ミヤちゃんと一緒にいたはずなのに……いつの間に東雲くんに……?」 身を起こそうとした深雪を、東雲は彼女の額に手を当ててやんわりと押しとどめた。 「深雪」 再びポスンと東雲の膝枕に倒れこんだ深雪が、一瞬何が起こったのか理解できずに目を瞬かせた。 「……まだ寝ていたほうがいい」
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