とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

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なんだかいつもより東雲の音が優しい気がするのはただの気のせいか、やはりこれは都合のいい夢ではないか、と一瞬だけ深雪は考えた。 「……東雲くんに、感染したら、いけません」 「…………いっそ、感染してくれて構わない」 まるで懇願するかのような東雲の切ない囁きに、深雪は思わず目を見張った。 額に触れる東雲の手が、サラリと深雪の髪をすいた。 「それとも…………雨宮じゃないと、嫌か?」 珍しく困ったように眉根を下げて問いかけてきた東雲を見上げて、深雪がそんなことない、と強く首を横に振る。 「……東雲くんの音は、…………すごく、安心できます」 そっとはにかむように微笑んで告げた深雪に、自然と東雲の表情は柔らかくなった。 大人しく東雲に甘えることにしたのか、まだ体調が優れないだけなのか、深雪は目を閉じじると再び微睡に身を投じながら、ぽつりと呟いた。 「誰かが傍にいてくれると、なんだか、安心して……眠れる気がするんです」 「……だから、雨宮が傍にいたのか」 「……はい。それもですけど……ちょっと、耳鳴りが、ひどくて…………そしたらミヤちゃんが、心配してこっちに来てく――」 深雪の言葉を聞きながら、東雲は彼女の両耳を包み込むようにそっと手を添えた。 言葉を途切れさせた深雪が、目を開けて驚いたように、眉根を寄せた東雲の顔を見上げたる。 呆けたような表情で瞬きする深雪を見下ろして、東雲はポツリと問いかける。 「……今は、大丈夫なのか」 耳鳴り、と付け足された東雲の言葉を聞いて、彼から伝わる音の響きを感じ取って、深雪は表情を綻ばせた。 「はい。……東雲くんが傍にいるので、平気みたいです」 深雪の微笑みに、東雲は安堵したように目を細めると少しだけ表情を緩めた。 「そうか」 不器用な東雲が見せてくれる穏やかで柔らかくて甘い笑みに、深雪はそっと笑みを深くした。 心地よい音の波に身をゆだねて、深雪の意識はゆっくりと眠りの淵へと沈んでいった。 *** それから、臥せていたスタッフ全員が快復し、カフェが再び開店したのは、もう少しあとのことである。                    < ~Fin~ >
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