とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

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この冬、とあるウイルスがカフェで猛威を振るった。 そのウイルスにより、最初に倒れたのは雨宮だった。 次に深雪、それから月白、円花が、次々と感染して倒れることになった。 *** 「――ああ、わかった。ついててやれ。お大事にな。晴海も気を付けろよ」 通話を終えた円花は、受話器を置いた。 「どうした?」 近くにいた羽鳥の問いかけに、円花はシフト表の晴海と雨宮の欄に×を書き込みながら答えた。 「雨宮が風邪でダウンしたらしい。晴海は看病で来れないって」 「そうか。……ただの風邪ならいいんだがな」 「まぁ、この時期だからな……アレじゃなければいいけど」 それにしても晴海は少し雨宮に過保護すぎないか、と呟きながら、円花と羽鳥はそれぞれの持ち場に戻った。 ◇ 深雪の様子がおかしい、と東雲は気が付いた。 今日はカフェに深雪が演奏しに来る日なのだが、休憩室で演奏のための準備をしている深雪がいつになくぼんやりとしているのだ。 「深雪」 「…」 不安を覚えて呼びかけるが、深雪はどこか上の空である。 「……深雪」 もう一度呼びかけると、ハッと我に返ったように深雪が東雲を見上げた。 「……え? あ、東雲くん。どうかしました?」 「いや…………大丈夫か?」 もっと何か違う言い方があるだろうと、口下手な自分自身にいらだったが、東雲は言葉にできない代わりに、じっと深雪を観察する。 敏い深雪なら、東雲の言いたいことを悟っているのだろうが、わかった上で深雪はこの会話をかわそうとするに違いない。 「大丈夫ですよ? あ。ミヤちゃんが体調崩したって、円花さんから聞いたんですが、後でお見舞いに行きますか?」 案の定とぼけられ、話題をそらそうとしてくる。 「深雪」 東雲は、深雪が何か隠しているということに気が付いている。 だから、ごまかそうとする深雪を見据えて、言葉で伝えられない分、彼女の仕草や表情から嘘を見抜こうとする。 「なにか……?」 深雪が目を瞬かせる。 「おまえ、」 言いかけながら東雲は、深雪の頬に手を伸ばしかけて、我に返って動きを止めた。 今この手は何をしようとした? 無意識の行動に戸惑い、中途半端に手を伸ばしたまま東雲の思考は一瞬だけフリーズした。 不自然に手を伸ばしたまま硬直してしまった東雲を、キョトンと不思議そうに見つめた深雪は困ったように微笑んだ。 「……東雲くんは、心配性ですね」
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