とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

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やはり止めるべきだった、と東雲は後悔した。 だが、もう演奏は始まってしまっている。 それを途中で止めるような真似は、東雲にはできない。 カフェのお客さんたちは笑顔で彼女の演奏に聴き入っているが、今日の演奏は少しおかしいと東雲は気づいている。 文句のつけようがないほど素晴らしい演奏であることに変わりはないのだが。 「東雲。深雪から何か聞いているか?」 カウンターの中で深雪の演奏を険しい面持ちで見守っていた東雲に、円花がそっと声をかけてきた。 深雪の異変に円花も気が付いたのだろうか、と東雲が彼を見やれば、円花は演奏する深雪を見据えながら補足した。 「いや、さっき…今日の演奏は1曲だけでもいいか、って頼みに来たから。なんか用事でもあるのかと思って」 東雲の眉間のしわが深くなったのを円花は見た。 「…円花さん。この後、早退させてください」 「ん? あーまぁ、人手は足りてるから構わないが」 東雲の急な申し出に面食らいながらも、円花は許可を出す。 ありがとうございます、と告げた東雲がエプロンをはずしながら店の奥へと入っていくのを円花は首を傾げながら見送った。 ◇ 演奏が終わると、お客さんたちが笑顔で拍手をおくってくれた。 鳴りやまない拍手の中、お客さんたちに優雅に一礼してから、深雪が店の奥へ退場したところで私服姿の東雲が待ち構えていた。 怒っているかのような東雲の険しい表情を見て、困ったように微笑み返した深雪は張りつめていた糸が一気に緩んで倒れこんだ。 「――ッ」 慌てて抱き留めた東雲は、衣服越しでもはっきりわかる深雪の熱の高さに表情を歪めた。 「…すみません。ちょっと、疲れました」 体調が悪いことを自覚しながら演奏するなんて無茶をやらかしたのだから悪化して当然だ。 「…まったくだ」 力なく微笑んでぐったりともたれかかる深雪を、東雲は深いため息をついてから軽々と横抱きに抱き上げた。 「おー、おつかれさん…って、おい、どうした!? 大丈夫か?」 裏口へ向かう途中で風雅と鉢合わせた。 東雲に抱えられてぐったりとしている深雪を見て表情を変えた風雅に、東雲は簡単に事情を説明した。 「…すみません。風雅さん、早退させていただきます。深雪を病院に連れていきますので」 「おう、早く連れて行ってやれ。店のことは気にするな」 荷物はあとで寮に届けてやるよ、という風雅の声に見送られて、東雲は店を後にした。
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