とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

5/13
前へ
/13ページ
次へ
*** 寮の部屋で、晴海は雨宮の看病をしていた。 「――ハル……ボクのことはいいから、お店に行きなよ」 「バカ言うな。病人置いて、行けるわけないだろ」 大人しく看病されてろ、と笑う晴海に、布団から少しだけ顔をのぞかせた雨宮が申し訳なさそうな表情をする。 インフルなんて何年ぶりかなぁ、とぼやく雨宮に、予防接種しないからだろ、と晴海は茶化した。 「何か食べられるか?」 「……欲しくない」 「少しでも何か食べないと、薬が飲めないだろ」 ぬるくなった氷枕を新しいのに取り替えてやりながら、晴海は困ったように苦笑した。 食欲ない、としぶる雨宮に、一口でもとおかゆを食べさせたり、薬を飲ませたりして、晴海はホント手のかかる幼馴染だなぁと思いつつ甲斐甲斐しく看病をした。 ◇ ようやく落ち着いて眠りについた雨宮を残して、晴海はそっと部屋を出た。 今のうちに何か足りないものでも買ってくるか、と考えたが、病人を一人にしておくのは心配だな、と思い直す。 夜に東雲たちが帰ってきたら留守番を頼んで買いに行こう、と決めた時、寮の玄関の方で誰かが帰って来る音がした。 誰だろうと訝しみながら晴海が玄関へ顔を出すと、帰ってきていたのは東雲だった。 「東雲? 早いな、何かあっ――……って、どうした深雪!?」 東雲に抱えられた深雪を見て驚いた声を上げた晴海に、東雲は簡単に説明した。 店で演奏終えて倒れた深雪を病院へ連れて行き、そのままこっちに帰ってきたのだと。 晴海は、ぐったりと目を閉じている深雪の容体を聞く。 どうやら、雨宮と同室の深雪もインフルエンザに感染してしまったようだ。 「やっぱりか……もう、この部屋は病人部屋確定だな」 苦笑しながら告げる晴海に、東雲も頷いた。 「俺としては、ずっとつきっきりで看病しててもいいんだけど……ミヤ子がやめろって言うからさ」 「……雨宮なりに、おまえのことを心配しているんだろう」 東雲としてもずっと深雪につきっきりで看病していたい心境なので、晴海の気持ちはよくわかる。 そして同時に雨宮と同じように、深雪も他者に感染すことを嫌がるだろうなと思った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加