1人が本棚に入れています
本棚に追加
いつものようにカウンター席に腰かけケーキを試食していた羽鳥は、一口食べて動きを止めた。
お皿の上のケーキをまじまじと見つめて羽鳥が首を傾げていると、厨房から月白が出てきた。
「月白、大丈夫か?」
唐突に声をかけられた月白が、訝しげな表情で振り向いた。
羽鳥の言動は、時々唐突である。
自分の言いたいことを端的に言葉にするので、円花以外にはなかなか理解できず大抵伝わらない。
相手もわかっている前提で、過程を飛ばしていきなり結論を言われるようなものだ。
「……何がですか?」
案の定、月白も何を問われているのか理解できなかったようで、眼鏡の奥の瞳を細めて怪訝そうな顔をされた。
「……いや。大丈夫ならいいんだ」
羽鳥も、それ以上言い足すことはせず、視線をお皿の上へと戻したので会話は途切れた。
いつものことなので特に気にした風もなく、月白は店の奥へと引っ込み、羽鳥はう~んと首を傾げながら、お皿の上の食べかけのケーキをじっと観察する。
見た目はいつもと同じ、だが、いつもと決定的に違うことが一点。
カランと入り口の扉のベルが鳴り、羽鳥が顔を上げると、店の外を掃き掃除していた風雅が戻ってきたのが見えた。
「――風雅」
「どうした羽鳥?」
おまえまたサボってるのか、と呆れたような風雅の呟きはスルーして、羽鳥は食べかけのケーキがのったお皿をそっと差し出す。
「……これを、食べてみてくれ」
羽鳥に言われるがまま、フォークを手に取り一口食べた風雅は顔を歪めた。
「うっわ、まっず!? なんだよコレ!?」
「……よかった。俺の味覚がおかしくなったわけじゃなかったようだ」
ほっと安堵の息をついた羽鳥を見て、風雅が顔をしかめる。
「おまえなぁ! 俺で確認するなよ!? 円花でやれよ!」
「円花にこれを食べさせるわけにはいかないだろ」
しれっと悪びれもせずに告げた羽鳥に、風雅は苦々し気な表情になる。
「俺ならいいのかよ!?」
「おまえらの問題だからな」
「は?」
どういう意味だ、と詰め寄る風雅を見据えて、羽鳥は淡々と答えた。
「これを作ったのは……月白だ」
最初のコメントを投稿しよう!