とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

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いつものようにカウンター席に腰かけケーキを試食していた羽鳥は、一口食べて動きを止めた。 お皿の上のケーキをまじまじと見つめて羽鳥が首を傾げていると、厨房から月白が出てきた。 「月白、大丈夫か?」 唐突に声をかけられた月白が、訝しげな表情で振り向いた。 羽鳥の言動は、時々唐突である。 自分の言いたいことを端的に言葉にするので、円花以外にはなかなか理解できず大抵伝わらない。 相手もわかっている前提で、過程を飛ばしていきなり結論を言われるようなものだ。 「……何がですか?」 案の定、月白も何を問われているのか理解できなかったようで、眼鏡の奥の瞳を細めて怪訝そうな顔をされた。 「……いや。大丈夫ならいいんだ」 羽鳥も、それ以上言い足すことはせず、視線をお皿の上へと戻したので会話は途切れた。 いつものことなので特に気にした風もなく、月白は店の奥へと引っ込み、羽鳥はう~んと首を傾げながら、お皿の上の食べかけのケーキをじっと観察する。 見た目はいつもと同じ、だが、いつもと決定的に違うことが一点。 カランと入り口の扉のベルが鳴り、羽鳥が顔を上げると、店の外を掃き掃除していた風雅が戻ってきたのが見えた。 「――風雅」 「どうした羽鳥?」 おまえまたサボってるのか、と呆れたような風雅の呟きはスルーして、羽鳥は食べかけのケーキがのったお皿をそっと差し出す。 「……これを、食べてみてくれ」 羽鳥に言われるがまま、フォークを手に取り一口食べた風雅は顔を歪めた。 「うっわ、まっず!? なんだよコレ!?」 「……よかった。俺の味覚がおかしくなったわけじゃなかったようだ」 ほっと安堵の息をついた羽鳥を見て、風雅が顔をしかめる。 「おまえなぁ! 俺で確認するなよ!? 円花でやれよ!」 「円花にこれを食べさせるわけにはいかないだろ」 しれっと悪びれもせずに告げた羽鳥に、風雅は苦々し気な表情になる。 「俺ならいいのかよ!?」 「おまえらの問題だからな」 「は?」 どういう意味だ、と詰め寄る風雅を見据えて、羽鳥は淡々と答えた。 「これを作ったのは……月白だ」
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