とある冬の日の、Cafe桜守-サクラノモリ-のスタッフたち

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「――月白」 名前を呼ばれて、月白は顔を上げた。 厨房の入り口から顔をのぞかせて声をかけてきたのは風雅だ。 「……なんですか」 「手を止めて、こっちきなさい」 ちょいちょいと手招きをする風雅を、月白は怪訝そうな表情で見据えた。 用があるならそこから言えばいいだろう、と眼鏡の奥の瞳を細めた月白に、風雅が先ほどよりも少し強い口調で言った。 「いいから、来いって」 早くと急かされ、月白は仕方ないなと作業する手を止めると、厨房の外へ出る。 「なんなんですか――」 月白の言葉を遮るように、風雅は両手を伸ばして月白の頬に手を添えると引き寄せた。 「はい、ごっつんこ~」 ゴツッと額と額がぶつかる音がした。 一瞬何が起きたのか理解できず、呆然とした月白だがすぐに我に返った。 「――ッ、何の真似です!?」 額を押さえながら風雅を引きはがして声を上げる月白に、風雅はやっぱりなと呟いた。 「はい、捕獲決定~」 風雅は月白の腰に腕を回すと、軽々とその身体を肩に担ぎあげた。 「なっ、風雅っ! 降ろしてください!」 「月白、おまえ今日はもう、仕事ダメ。休め」 「何を言ってるんですか! まだ開店前ですよ」 暴れるなって落とすぞ、と月白をなだめすかしながら風雅は、そのまま二階の月白の部屋まで彼女を担いで運び込んでベッドにおろした。 「風雅! どういうつもりですか!」 「ハァ~……マジで自覚ないのかよ……。月白、おまえ熱あるぞ」 え、と目を瞬かせた月白を見つめて、ホント仕事バカだなぁ、と風雅は呆れたように苦笑した。 ***
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