アオイ

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田村葵衣(たむらあおい)はうーん、と悩んでいた。 隣では兄が買ったばかりのゲームをしている。 母がそろそろ晩御飯の支度をしなきゃ、と呟いて趣味と実益を兼ねたハンドメイド小物を作りの手を止め、道具を片付け始めた。 葵衣の目の前には一枚のプリントがある。 昨日決まった、委員会のメンバー表だ。 一年生は自分ともう一人。 その、名前の読み方がわからない。 『浦浪麗』 大人であれば簡単に読めただろうし、同じ中学生でも、もう少し漢字が得意なら苦労しないであろう。 「うらられ?」 何か、違う気がする。 『うらられ』だなんて名前、普通あるだろうか? 明日は顔合わせがあるというのに、友達になれるかもしれない女の子の名前の読み方がわからない。 「おいママ、俺、明日出勤することになった」 リビングすぐとなりの書斎から、父がこちらを振り向く。 父は会社員だが、殆ど自宅にいる。友人の父親などは毎日出社するのが当たり前だが、父の会社はネットワークがどうとかで、出社は週に数回で良いらしい。 「え?そうなの?わかりました」 母はそう言ってカレンダーに『パパ出社』とメモをした。
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