名もなき鳥のうた

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再び目覚めると、クヌギの木は心配そうに僕の顔を覗きこんでいた。 「長い間眠っていたよ」 彼は葉の上に生まれた朝露を、僕の口元へ持ってきてくれて、それを一口飲んだ。 いつも目覚めた時は、ばさりと羽ばたいて背伸びをする癖があったので、また同じことをしようとして、翼がないことを改めて思い知らされる。 翼がない僕は、これからは鳥を名乗る事さえはばかられる。 一体、何者として生きて行けばいいんだろう。 肩の痛みは、だいぶ和らいでいた。 それが嬉しいことなのか、僕にはよくわからなかった。 頭の中が痛みでいっぱいであれば、何も考えなくてすんだかもしれない。 翼のない悲しみや苦しみなんて、感じなくてすんだのかもしれない。 「お腹がすいただろう」 クヌギの木は、自分の枝をふるふる降って、どんぐりを落としてくれる。 お腹はすいていた。 だけど、食べたくなかった。 食べると言う事は、これから生きて行く事を、受け入れるということでもあるような気がして。 翼を失い、堂々と鳥を名乗れなくなってしまった僕には、その覚悟はまだ出来ていなかった。 「食べないのかい」 クヌギの木の悲しそうな声に胸が痛む。 「ありがとう、でも、僕は…」 食べたところで、もう、飛べないんだ。 風に乗り、どこまでもどこまでも、自由に飛ぶことなんて出来ないんだ。 この冷たい大地を、二本の足だけで、歩いて行かなければならないんだ。 「食べたくなったら、食べるんだよ」 クヌギの木は、僕の足元にどんぐりをきれいに並べて、優しく頭を撫でてくれた。
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