名もなき鳥のうた

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それから僕は、毎朝目覚めると、羽ばたく代わりに歌を歌うようになった。 その歌で、クヌギの木は目を覚まして、僕にどんぐりをくれた。 二本の足だけでどこまでいけるのか、僕は試してみたくなって、散歩もするようになった。 美味しい木の実が落ちていたり、香しい花を見つけたり、ごくごくと水が飲める小川を見つけたりして、なかなか有意義だった。 日が暮れると、クヌギの木の元へ戻る。 そして、眠りに就く前に、歌を歌う。 「その歌、好きだなぁ」 今日は、気分がよかったので、今まで聞かせた事がなかった、とびきりの歌を歌った。 「これは特別な歌なのさ」 「特別?」 「誕生日の歌なんだ」 「へぇ」 「仲間の誕生日には、この歌で祝福するんだ」 「素晴らしいね」 「だろ」 「僕も覚えたいな」 「じゃあ、これから、毎日聞かせてあげるよ」 それから、僕は、毎日クヌギの木に誕生日の歌を歌って聞かせた。 クヌギの木はその歌に合わせて枝を揺らし、陽の光を葉で弾いて、どんぐりをぽろんと落とした。 僕はそのリズムに合わせて二本の足でタップを踏んでいた。 たった二本しかない足でも、音楽を奏でられるんだと、そのとき初めて気づいた。
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