終末

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終末

始まりはアフリカだった。 小さな、あまりにも小さな存在からの始まりだった。 小さな存在の持つ恐怖は大きさでは語れなかった。 毒リンゴか、あるいは蝙蝠が原因だったのだろうか。 このどちらかの呪いにかかった不幸な幼児は命を落とした。 その雫が波紋のように広がっていった。 まるで人間の持つ怨念が連鎖していくように呪いをかけていき、命を落としていく。 波紋は無数に広がり、海にまで到達した。 そして、小さな波紋は無数の重なりによって波を押しのけ地球を覆った。 そして、全人類が罪を背負ったのである。 冬が過ぎたというのに、春なんてものはない。 依然として暗がりの空気を纏っている。 明るいものはみんな消えていった。 テレビ番組もスポーツも外で遊ぶ子供も仕事帰りのサラリーマンも消えて行った。 残されたものは被害報告の報道番組と動物の死骸と人間の死骸である。 みんな死んでいった。 娯楽も文化も人間も。 何もかもが呪いに奪われていった。 この僕もいつ死ぬかはわからない。 誰が生き残るのかも、この先どうなるのかもわからない。 意思のない呪いは目的もなく僕らを滅ぼす。 この行き場のない感情をどこにぶつければいいのだろうか。 無念でしかたない。 命を落とした人間の無念すら晴らせない自分に。 ずっと考えてきた夢と未来図を実現することができない非情さに。 友人も親戚も何人も失ってしまった。 呪いの拡大に追いつけなかった人類は敗北した。 最早、誰も止めることはできない。 呪いで死ぬくらいならと首を括って死んだ者も世界中で増えた。 死体の数が多すぎて道端の隅に放置されている状態だ。 これを春と呼べるだろうか。 呪いが日本に到来して二ヶ月もしないうちに日本は崩落した。 友人の家を訪れたら、もうすでに居ないことや友人が道端で動かなくなっているのも見た。 世界中がこんな様子なのだ。 誰も助けてくれる人はいない。 助ける術がないのだ。 逃れる術もないのだ。 生きている人間の目も生気が感じられず、死人同然であった。
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