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聖痕
ニュースキャスターが四回目の交代をし、人口の半数以上が命を落としたという報告から十二日が経過した。
サイレンも泣き叫ぶ声も苦しむ声もない。
死体を啄ばみにきた烏や喰らおうとした蛆虫も死んでいるようだ。
すでに死体処理として火葬とはとても言えない焼却が進行し終えていた。
焦げ跡とほとんど誰もいない街。
静かすぎて息苦しい。
世界のどこかにまだ平穏な土地があればと信じる気力も私にはもう無かった。
そんな時間も残されていないようだ。
僕にも呪いの兆候が出始めた。
体が軋むように痛く、意識が朦朧とする。
胸には謎の傷が浮かび上がる。
それは十字の形をしていた。
そこから血が滲み出る。
熱と痛みが僕の命を擦り減らす。
僕にはまだやり残したことがある。
それに気づいたのが今さらであったことには何も言えない。
どうして今まで気づかなかったのか。
それが不思議で仕方がなかった。
体が溶けるような熱と闘いながら、呪いの十字傷に苦しめられながら、僕は好きだった人の家へと向かった。
何故向かうのか、何をしに行くのか、僕にさえ分からなかったが、それをせずして死ぬわけにはいかないという信念だけは確固たるものとしてあった。
最後だからこそやらなくてはいけないのかもしれない。
勝手な思い込みすら今の僕にとっては大切なものだった。
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