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正午間近、本部の階段を踏みしめていた俺は、頭上から見下ろしてくる人影を視界におさめた。
連れていた部下をどこかへ向かわせ、憎い敵でも見るようなーー憎悪に満ちた表情で、ハリス副団長は俺を凝視していた。
ここはとりあえず、おとなしく頭でも下げておこう。
「遅くなってすみません、副団長」
「本当にな。ブラックフォード団長をお待たせするとは、いいご身分だな、ルーカス」
まだ若いというのに、副団長殿は眉間に深々としわを刻み、目力を強める。
さらに頭を深く下げる俺の前を通り過ぎ、先に団長の部屋へ足を向けていた。
その後ろ姿を見ると、なぜか小さな笑みが浮かんだ。
あの人は、俺が嫌いだ。
性格上どうしても合わない人種は存在するが、あの人の場合、俺と会った瞬間から嫌悪感を露わにしていた。
綺麗な白髪の陰で光る鋭利なまなざしは、言葉よりも確かに、俺への憎悪を表していた。
嫌われるようなことをした覚えはもちろんない。
一週間前、団長から副団長を紹介されたのが初対面だ。
きっと、俺の中にある"何か"を感じ取り、嫌悪しているのだろう。
俺としては仕事を円滑に進めるためーーいや、彼とは仲良くしたい。
あの若さでの組織幹部職。そして、幼さが残っているが、人目を惹く凛とした顔。
あの人が俺に一瞬で憎しみを抱いたように、俺も一瞬であの人に好感を持った。
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